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悪い男から離れられないのは、「ストックホルム症候群」かもしれない

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「好き」は、生き残るための戦略

アメリカの精神科医、フランク・オッシュバーグ氏は、人質たちの心理を、
「逃げ出すことのできない極限状況で、犯人に命を握られていた。抵抗するよりも、犯人から『好意』を引き出したほうが、生き残る可能性が増すと判断したのではないか」と分析。事件が起こった地名から『ストックホルム症候群』と命名しました。

「人質たちにとって、『好意』は、切迫した状況における、ぎりぎりの『生き残り戦略』だった」というのです。

人間は、自分に好意を示す相手を、なかなか攻撃はしにくいものです。強盗犯たちも、それは同じ。殺すとなると、強い抵抗がある。だからと言って、犯人にあからさまに媚びたり、擦り寄ったりすると、反感を買ってしまうかもしれない。ゴマすりがバレて、相手を怒らせてしまう可能性もある。「好意を持つ」ことは、「無意識のうちに」、「自然に」行われなければならない。

人質たちの、不可解ともいえる心の動きは、犯罪現場という異常な状況において、自分を守るための、「正常な反応」だとも言えます。

オッシュバーグ氏は、「同様の精神状態は、親から虐待され続けていた子どもや、DVの被害者にも見られる」と言います。虐待は、被害者を孤独化させます。被害者は、加害者(親、夫、恋人)しか頼るものがいないという状況に追い込まれてしまう。その結果、無意識のうちに、加害者に強い愛情を感じてしまうのです。

「彼に捨てられたら生きていけない」彼とわたしの関係は、犯人と人質と同じ

DV男と付き合っていた当時、彼から別れをちらつかされると、私は怖くてたまりませんでした。彼に捨てられたら、もう生きてはいけないと、本気で考えていたのです。

彼は銃を持っていたわけではないけれど、彼と私の関係は、「犯人と人質」そのものでした。

「彼は悪い男。でも別れられない」
「ダメ男が好き」

一見単純で、よくある話のようですが、その恋心の奥底には、非常に複雑な無意識の働きがあるのかもしれません。

 ■長南はる香/性暴力サバイバー、現代美術アーティスト、写真家。高校生の頃から、約10年にわたって性的虐待、DVを受ける。その後、セックス依存症に。トラウマを乗り越えた経験を元に、「女性のためのエロティックアート」を制作している。HP『現代美術アーティスト「はる香」の描くアダルト映像の世界

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