ホームドラマの予定が、戦闘重視に?
そもそも放送前から物議を醸していた『花燃ゆ』。まず、番組のメインビジュアルがあまりに“大河らしさ”とかけ離れていた。キャスト陣がどこかの屋根の上に座り、中央にはお盆を持って微笑む井上、お盆の上には大量のおにぎりが並んでいる。その井上を囲むようにして東出昌大、高良健吾、伊勢谷友介、大沢たかおがいて、彼らは全員おにぎり片手に微笑んでいるのだ。え? なぜ、おにぎり? それは文のキャラ設定と関係がある。「幕末男子の育て方」という、これまた不評なこのドラマのキャッチコピー通り、文はおにぎりやお味噌汁やお菓子を周囲の幕末男子たちにふるまい、人と人の縁を繋いでいく魅力的な女性という設定で描かれているのだ。だからポスターにもおにぎり。このポスターは発表されると同時にネット上でも集中攻撃の的となった。「大河版・花より男子って感じ?」と揶揄され、「大河というより、朝ドラ感が半端ない」「イケメンさえ揃えてたらそれでいいだろ、っていう安直さがイヤ」などなど、ごもっともな意見が続出。
加えて、ヒロインが無名であるということもウィークポイントだった。吉田松蔭なら誰もがその名を知っている。しかし、その妹となると話は別だ。むろん歴史の授業で習ったこともないし、その存在さえ知らなかったというのが多くの人の本音であろう。大河で無名の人物を主人公に持ってくることは非常に危険であるとされているが、無名であるがゆえに視聴者に既視感を抱かせることなく、ある程度自由に描けるという利点もあるはずだ。しかしこの文、今のところどうも影が薄い。吉田松陰を演じる伊勢谷友介の迫力ある演技に押されてしまっていて、まるで伊勢谷が主演のようなのだ。
伊勢谷はすでに同番組をクランクアップしており、4月26日が彼の最後の出演回となる。クランクアップ会見で集まった記者から視聴率について質問された伊勢谷は「ちゃんと見ている人には伝わっていると思う。10%もあれば十分。これから闘いだらけになるので、数字が上がるかも」と話した。しかし闘いだらけになるという今後の展開次第では、ますます井上演じる文の存在感は薄くなるのではないだろうか。当初は「大河だけどホームドラマ」「青春群像劇をやります」などと意気込んでいた制作陣であるが、「アットホームなほのぼの大河」をやりたいのならそれを貫けばいいのに、受け入れられなそうだから「戦闘シーンばんばんやります!」では身も蓋もない。また、「10%もあれば十分」とは、たとえ演者がそう思っても、NHK側はとても思えないだろう。NHKの籾井勝人会長が『もうヒロインを出すな』とトンデモ発案をしている」とも報じられている。今後の視聴率次第では、本来文目線で物語が進行するはずのこのドラマが、ヒロイン無視の脚本で進行してしまう事態も起こり得るということか。もしくは前代未聞の打ち切りとなってしまうのか。
しかしだ。もしかすると、案外この「低視聴率騒動」によって、怖いもの見たさで『花燃ゆ』を見てみよう、という視聴者が来週あたりからぐーんと増えるということもあるのかもしれない。いずれにしろ12月まで続く大河はまだ序盤戦で、(打ち切りがなければ)先はまだまだ長い。どのような手法で挽回させていくのか、そういう意味ではこれまでで一番見応ごたえのある大河となるといえるだろう。最低視聴率は7.3%にまで落ち込み、全50話中9話が一桁台の視聴率となった『平清盛』の二の舞にならなければ良いが。
(エリザベス松本)
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