スクールセクハラは『魂の殺人』
スクハラは『魂の殺人』と言われています。50代、60代になっても、被害の記憶に苦しめられ、忘れられないという女性も多い。彼女たちに共通しているのは「誰にも言えない」ということです。怒りや恐怖は続いているのに、家族や親しい人にも打ち明けられず、何十年もずっとひとりで悩みを抱えている。
多くの被害者の声を聞き続けてきたNPO法人「スクール・セクシャル・ハラスメント防止全国ネットワーク」代表の亀井明子さんは、
「体は存在しても、被害者の意識は別のところにあり、雲の上を歩くような感覚に陥る」
「被害者は、恐怖心がある上、自尊心を奪われて、自分を大切な存在だと考えられなくなり、加害者や周囲に合わせていく傾向がある」
と言います。
スクハラの背景にある「教師の特権意識」と「危機管理の甘さ」
教師は、指導のために特別な権力を与えられています。内申書、進学の推薦、部活動のレギュラー選抜……。学校生活や、進路を左右する力を持っている教師に対し、生徒が「イヤだ」と言えないのは当然です。
亀井さんは、
「加害者である教師側に『権力を持っている』という自覚がないのが問題だ」と説きます。暴力の背景には、必ず「権力による力関係」が隠れています。
親と子、先輩と後輩、上司と部下、教師と生徒。虐待、しごき、パワハラ、スクハラと、言葉は変わっても、根底にあるものは一緒。それは、私が長年苦しめられたDV・モラハラも同じです。
さらに「学校側の危機管理意識の甘さもある」と亀井さんは言います。
「大学では、セクハラ防止の観点が強く意識されているのに、小中高校では何の注意も払われていない」
「大学では、密室で一緒にいるだけで疑われても仕方がないとされている。『生徒と二人だけでいる時は、ドアを開けておく』という規則があります。そのようなルールを作り、教師に徹底させることが学校の危機管理です」
わいせつ行為は密室で行われることが多く、一対一の関係だから被害者が誰かに相談しない限り発覚しにくい。被害者が訴えず、発覚すらしないから、被害は地下に潜ったまま継続し、拡大していくのです。
「生徒は『子ども』。学校で性被害など起きるはずがない」
親も含め、周囲の大人が、そう思い込んでいることが問題ではないでしょうか。
「教師から生徒への性被害」 闇を闇のままにしないために
性被害は、女性から言葉を奪います。私自身もそうでしたが、被害について語ろうとすると、頭にかすみがかかったようになり、言葉が出なくなってしまうのです。
「セクハラ」「モラハラ」「パワハラ」「マタハラ」と、さまざまなハラスメントが顕在化し、対策が取られ、言葉としても定着しました。でも、「スクハラ」はまだまだマイナーです。私は「スクハラ」が多くの人の知るところとなり、被害者が救済されることを、このハラスメントを受けた女性として、願ってやみません。
■長南はる香/性暴力サバイバー、現代美術アーティスト、写真家。高校生の頃から、約10年にわたって性的虐待、DVを受ける。その後、セックス依存症に。トラウマを乗り越えた経験を元に、「女性のためのエロティックアート」を制作している。HP『現代美術アーティスト「はる香」の描くアダルト映像の世界』
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