
吉田潮『幸せな離婚―自由に生きるって気持ちいい!』生活文化出版
【前編はこちら】
24歳で結婚をし、公務員の夫と共働きで稼ぎ、友人たちに囲まれて楽しく生活していた吉田潮さん。しかし「もっと他の男とセックスしてみたい」気持ちが膨れ上がって出会い系サイト等で三桁以上の男たちと一夜限りの関係を持ちまくった結果、夫にバレて32歳で離婚。
が、その翌年、33歳で出会った「体の相性がめちゃくちゃイイ男性」と再婚しているんだから人生はワカラナイ。インタビュー後編では、そんな潮さんが「この男の子供が欲しい」と思って妊活に励んだ時のことを振り返る。
サクセスじゃない不妊治療
――大学卒業後、初婚時代の潮さんは編集プロダクションに勤めてライターとして夜中まで仕事をしまくっていましたよね。その後、会社を辞めて個人事業主であるフリーライターとして活動を始め、相変わらずばりばりと。
吉田「でしたね。離婚時に、慰謝料50万円を請求されたのでまずはそれを完済しようと思ってめちゃくちゃ仕事を受けて書きまくりました。その勢いのまま、4年で1000万貯めましたよ」
――すごい!
吉田「酒代以外は浪費しないから。洋服も生協で買うくらいだし」
――そして、30代後半になって「子供が欲しい」と思うように?
吉田「単純に産んでみたくなりましたね。別に子供好きなわけじゃないんだけど、私の母親も『子供好きなタイプ』ではないのに、2人産んで普通に育てたんで、やりたいなと思って。多分、私は今の夫にすごく惚れたんですよ、なんか惚気けてるみたいで嫌なんだけど。あのね、彼は骨がものすごい丈夫で。交通事故に5、6回遭ってるんだけど、たいした怪我にならないの。それに肉とか麺が好きでごはんをよく食べる。そのDNAの強さ、良いなって思って。私は身長170cm以上あってデカいし彼も大きいから、この人との子供が出来たらデカそうで面白そうだな~って思ったんですよ。それが36の時、遅いよね」
――生殖年齢的には遅いですよね。
吉田「本当はその段階で不妊治療やってれば、できたかもしれないんだけど、その時はまだ普通にセックスすればできるって思ってたんだよね。でもまあそれは遅かったね」
――振り返れば、ですよね。
吉田「それに、子供欲しいって思いはじめてから、自分の中での快楽に対する欲求がすごく減っちゃったんですよ。加齢現象もあるんだろうけど、要はセックスの目的が一時期、生殖になっちゃったわけです。タイミングを狙って射精してもらうっていう。排卵日だから今日やっとかないと、とか言って、同棲中だった夫を無理やりレイプするみたいな。夫は精神的にレイプされている。これが私が36歳の頃の話なんですけど、なかなか妊娠しないしそうこうしているうちにお互いの気持ちが離れて別れたんです。だけどもう1回やり直そうかってなって、復縁して、今度はちゃんと病院に行ってみようと。そして不妊治療を始めて入籍しました」
――期間とかかった金額をお伺いしてもいいですか。
吉田「半年で80万かかりましたよ。でもまだ安いほうっていうかさ、他の人なんか何年も続けたりして何百万っていう単位になっていくから。私たち夫婦は、体外受精をやったんですよ。体外受精って簡単に言うと、卵を私から採るでしょ、で精子をかけて、受精卵にしてから子宮に戻す。人工授精だったら一回3万でできるんだけど、体外受精になると技術が必要だから1回30万くらいだったかな」
――それを2回。
吉田「2回やって、2回目妊娠したんだけど稽留流産っていって育たなかったんですよ。そこまでにかかった費用が80万。その時、私は39歳だったんだけど、40歳までに産めなかったらもうやめようって決めていたので、そこですっぱりやめました」
――40歳まで、ってリミットをご自身で決めていたんですね。
吉田「体外受精してちゃんと胎児が育って出産できる確率って、40歳からびっくりするほどガクンと下がるんですよ、一気に。30代だと20%~15%の確率で子供ができるけど、40越えると1%。そこまで下がるの。まあ個人差あるでしょうけどね。でも自分は40以上は無理だなって思って。お金の問題もあるしね」
――お金もだし精神的にも体力的にもだし、全部ですよね。
吉田「そうなんですよ。5日に1回病院行かなきゃだから、仕事の時間も削らざるを得ない。頻繁に病院行って血液採って、今日はこのタイミングだからって誘発剤飲んだりとか尻に注射打ったりね。こりゃ続けるのは私はムリだなって」
――ブログにも、非常に細かく不妊治療してた時のことを記していますよね。突発的な排卵を防ぐために、尻の穴にボルタレンを仕込むとか。
吉田「卵子取るのって結構大変なんですよ。採取する前に卵をいっぱい出しておきたいから排卵誘発剤を飲んでタイミングをはかって、『今日です!』って言われた日に病院行って、膣から管を通して、ぶすっと卵巣を破って刺すわけですよ、それで良さそうな卵を採る。誘発しても卵が採れない人もいます。私は4個くらい取れたんだけど。でも4個のうち2個は受精卵にならなかった。採卵自体も5万くらいかかるし、それを凍結保存しておくとなると“卵の家賃”もかかってくる。こういう細かいことっていざ体験するまでわからないから、せっかくだしなんか本にできないかなって思ってブログに細かく記録つけてましたね。でもね、いろいろな出版社に相談したけど、『最終的に成功しました!』っていうんだったら本になるって言われた。私は2回しかやってないし、失敗してるから、それじゃ本にならねえって。やっぱり物語として売るにはサクセスが必要なんだと思いましたね。日本人ってやっぱ経験値を必要とするっていうか、苦労が好きだから。私みたいに苦労してないあっぱらぱーみたいなのが不妊治療こんなんでしたーって本出しても受け入れられないと思いますよ(苦笑)」
――しかし、「ここまで」というリミットを決めて挑んだ点など、学ぶことはたくさんあると思いますけれどね。やっぱり自身で決断する力が一番大事じゃないですか、何事も。人生の大きなイベントって結局自分で決めなきゃいけない。
吉田「自分で決めると後悔がない。人が決めると人のせいにしちゃうじゃないですか。人間って弱いから。自分で決めたことだったら諦めがつく。でも私はそんな潔い人間じゃないんだけどね、ホントは。潔いフリしてるんだよね。案外、世間体を気にするので」