連載

働きたくないからハローワークに行ってみた

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読者の皆さんに僕の相談を聞いていただくこの連載。初回の相談(働かなくても明るい未来はありますか?)が掲載されてからというもの、僕はちょっとした恐慌状態に陥っていました。

パソコンを開くと飛び込んでくる、厳しいコメントの数々。「働かざる者食うべからず」という、どストレートな正論を見ては頭を抱え、「ますますニートの沼にはまる絵しか浮かばんわw」というメッセージの「ニートの沼」という語感に震える。

ずぶずぶと、沈み込んでいく、底なし沼みたいなイメージが、頭の中にしつこくこびりついて離れませんでした。そう、薄々想像してはいたものの、messy読者の方々のコメントは、中々にハードコアで前衛的なものでした。

「親兄弟叔父叔母を殺して服役し、出所したら生活保護を受けなはれ」

なにせ一番最初についたコメントが尊属殺人の提案ですからね。ロケットスタート過ぎるでしょ!! 怖いよ!

大体、みんな働け働けってどんだけ働くの好きなんだよ!? そんなに働くのが好きで好きでたまらないんですか!?  僕は今も昔も、働くのが嫌で嫌でしょうがないよ。それとも、みんな嫌なのに我慢しながら働いてて、だから無職が目に入るとムカついてしょうがないってことなのでしょうか? その気持ち……! すごくわかる!!

「もしかして何かの脳機能障害なのでは?男性と仕事のアイデンティティは深く結び付いてるから自分でもコントロール出来ない脳機能の問題があるんじゃないかなと」
「ハロワ行けよ若造が」
「土木作業員でもやって、肉体労働経験しなよ」
「僧侶になる」
「田舎に土地つき中古て激安物件を買って野菜を育て山菜を積み(原文ママ)鶏をシメて半自給自足するのはどうです?」
「ネットビジネスあたりからやってほしい!」

とバラエティに富んだお答えが寄せられました。実はもっとたくさんあったのですが、とてもここでは全て取り上げきれないほどの様々なお叱りが届き、中でも比較的具体的なものだけを抜粋させて頂いています。もちろん、アドバイスフォームやコメント欄から頂戴したメッセージには全て目を通し、折に触れて何度も読み返しています。たくさんのお答え、ありがとうございます。

さて。

「肉体労働」は体力ないから無理だし、「僧侶」は頭剃りたくないから嫌、「田舎」は虫が怖いからナシで、「ネットビジネス」はバカだから出来ない。……そうなると、あとは「脳神経外科」か「ハローワーク」です。「脳神経外科の診察代って経費で出ますかね?」と聞いてみたら「出るわけないでしょ。おバカなんですか?」と編集部から答えが返ってきました。

28歳のハローワーク

そもそも僕は「働かないでも明るい未来を手にすることが出来るような方法はないのでしょうか?」という人生相談をしたハズなのに、返ってきた答えのおよそ7割が「ない。働け!」というものでした。こうなると、そうしたご意見の数々を、おいそれと無視するわけにはいかなくなってきました。

昔、村上龍氏が『13歳のハローワーク』(幻冬舎)という本を書いて話題になりました。そこには色々な職業についての説明が書かれていました。ハローワークに行けば、様々な職業を知ることが出来るんじゃないか。働くってどんなことなのか、無職の僕にも理解できるんじゃないか。

敵を知り己を知れば百戦あやうからず、なんて故事もあります。僕の人生最大の敵である「仕事」について、ここらで理解度を深めておくのも悪いことじゃないのかもしれません。ハローワークに行き、やっぱり僕には働くなんて無理だ、不可能だ、そう再確認することで、これからの無職ライフを有意義に過ごすことが出来るようになるかもしれません。

わからないけど。ともかく、何か現状を打破することが出来るんじゃないか。そんな期待がありました。そうだハローワークに行こう。

半ば引きこもり的な生活を長らくしていた僕に、久しぶりの外出は中々のストレスでした。道行く人々に「こんな平日の昼間から良い歳した男が何ブラブラしてるんだ?」と視線でとがめられているような気がして、無意識に手が震えていました。もう帰りたくなってきた……。

ともかく、近くのコンビニでタバコでも買ってニコチンを摂取することで、この震えをおさめよう。そう思い、僕は自動ドアをくぐりました。

金髪「あんた、どのツラ下げて来たのよ!?」

入るなり金髪の女性店員に辛辣な言葉を浴びせかけられました。絶対おかしい。何故。無職はコンビニすら使っちゃいけないって言うのかよ!? ところがよく見ると、いやよく見るまでもなく、その顔には見覚えがありました。

……そう、実は僕、父親に激怒されて嫌々、近所にあるコンビニで週一でバイトをしていたことがあったのでした。愛想が悪いとの度重なるクレーム、コーヒーマシンをひっくり返す、弁当を電子レンジで爆破、誤って非常ベルとサイレンを鳴らして町じゅうに響き渡る大騒動が勃発(止め方が全くわからない!)、客に本気でケンカを売り警察沙汰に……などのトラブルが続いて、いたたまれなくなり、連絡も取らずにサボってバックレを決め込み、やめてしまったのでした。

くだんの金髪女性店員は、かつて一緒にバイトしていた同僚だったのです。たしかに、どのツラ下げて、と言われても仕方ない。そそくさとタバコを買い、コンビニを出ようとすると、金髪女に呼び止められました。

金髪「日本酒、いる? 売れ残り、あるんだけど。今事務所にいたオーナーが、奥山くんにあげてもいいって」

事情は無駄に込み入っていたので端折りますが、店頭で売れなくなった日本酒が大量に余っているというのです。うながされるままに日本酒を2本もらい、コンビニ袋にぶら下げていくことになりました。ラッキー! と思う反面、どこか非常に後ろめたい気持ちがありました。これからハローワークに行くのに……。何か既に、暗雲が立ち込めているというか、幸先が良いのか悪いのかわからないというか、嫌な気しかしないというか……。

働くって、何?

電車に揺られて繁華街に到着、目指すハローワークは駅出口すぐにありました。もう、気分は最悪です。僕、ハローワークが苦手なんです。実家に戻る前、東京で無職だったころ、失業保険をもらうために何度か通ったことがありました。あの、特有のどんよりした重苦しい空気感。笑いの一切ない、切迫したリアルな感じ、否が応にも現実的な思考を強いられてしまう、そんな雰囲気が大の苦手でした。

ハローワークの前で建物の写真をとりながら、ずしんと胃のあたりが沈んでいく感覚がしました。もう帰ろうかな……。連載のための証拠写真も撮影したし、このまま帰って、あとはテキトーにでっちあげてもバレないだろ……。そうだ、そうしよう……。そんな方向に気持ちが傾いていきそうになったのですが、やっぱりそれじゃ何も変わらないままだろ、と思い直しました。

ふと見ると、手元には日本酒の瓶が2本、存在していました……。

数十分後。

……もう怖いものは何もありません! 僕は大変勇ましい気持ちでハローワークの自動ドアをくぐりました。

僕「すみません、初めて来たのですが」
担当者A「では、こちらの、わかもの支援コーナーで承りますので……」

そう言って手渡されたプリントを見て驚く。京都市的には、45歳未満は、若者という扱いらしい。なんだか、希望が見えてきたぞ……! 待つこと40分、ようやく専用のブースに通されて、相談が始まりました。担当してくださったのは、三十代くらいのメガネの女性、公的機関で働く人というよりむしろ、なんだかカウンセラーみたいな柔和な印象のお姉さんでした。

お姉さん「探していらっしゃるのは……ク、クリエイティブな仕事、ですか」

僕の記入した求職票を見ながら、担当者のお姉さんはそう言いました。

お姉さん「……ちなみに、何故前職をやめたんですか」
僕「仕事がつまらないからです」
お姉さん「……奥山さんは、仕事について、どういうイメージを持ってらっしゃるのですか?」
僕「苦痛。奴隷。絶望。虚無……」
お姉さん「なるほど……このままだと厳しいかもしれませんね」

彼女は渋い表情でうなりました。それは二文字で表すとまさに「受難」という顔。何故にハローワークで、何故にこの経歴でクリエイティブな職を? と直接的に口にこそしないものの、お姉さんは疑問に感じているようでした。

お姉さん「いいですか。厳しい、というのは、奥山さんの、働く、ということに対する物事の捉え方、考え方に、致命的な問題があるからです。そこからまず、じっくり考えていく必要があるんじゃないでしょうか? 前職は待遇も悪くないですよね? でも、なんとなく、やめてしまった。そういう方、多いんです。奥山さんだけじゃありません。このまま、駆け足で仕事を決めてしまっても、また同じように虚しくなって、やめてしまうんじゃないですか?」
僕「た、たしかに……」

最初は冷やかし半分のつもりでいた僕も、段々とこの人の職業的熱心さ、みたいなものに心を打たれ始めていました。ここまで親身になって僕に意見してくれる人なんて、messy読者の方々以外に、久しくいなかったような気がします。

お姉さん「だから、まずは働くとはどういうことか? ということを、私と一緒に考えてみてもらえませんか」
僕「そ、そうですね。お願いします」

するりと、自分でも意外なほどに前向きな言葉が口をついて出てしまいました。

お姉さん「では、まず……。奥山さんは、お金の歴史ってご存知ですか?」
僕「お、お金の歴史……!?」

……そこからお姉さんの人類史の説明は、長きに渡りました。その間、およそ三十分以上。なにせ、狩猟民族の成立から話がスタートしましたからね。で、お姉さんが一心不乱に農耕民族の生活を説明しているのに相槌を打ちながら、思いました。早く文明、発展しないかな、とかじゃなくて。

この人は多分、滅茶苦茶、凄まじくいい人なんだ。こんなにもダメな僕を熱心に説き伏せ、社会復帰させようと職業的使命感に燃えている。だけどこの話の、心に響かなさ半端じゃないな……。なんでこんなに僕の心は簡単に死んでしまうんだろう?

いつもそうだ。

他人の話が真面目に聞けない。心の中で茶化してしまう。リアルに切実に捉えるってことが出来ない。上司が目標達成の重要さを説いていても、バカなのかな? としか思えなかったし。結婚しようよって言われても、命より大事なユメなんかの話をされても、逆にすれた現実的な意見も、あるいは心の奥底のトラウマを聞かされても、小馬鹿にしてしまう。最低の人間だな、僕は。

でもどうしょうもないんだ。変われないんだ。

このわかもの支援相談窓口には、1時間という時間制限がありました。結局お姉さんの人類史の講義は、いよいよ和同開珎というところで終わってしまい、まだハローワークカードというものの作成が終わっていなかったので、次に一般窓口に向かうことになりました。このハローワークカードに割り振られる登録番号を端末などで入力することで、より詳細な求人情報をゲットしたり出来るらしいのです。

番号札をとって並び、カードを作るために求職票を持って行くと、一般窓口にはインパクトの強い老齢の女性がいました。

森永さん「あらあら、今日はどういったご用件でいらっしゃったのかしら? うん?」

独特のイントネーション、森永卓郎似のビジュアル、奇天烈なオーラ。こ、この人は……地方都市の公的機関の窓口におよそ1人はいる、ナチュラルに変な人だーっ!!

な、なんだよそのアンモナイトの化石みたいなデザインの妙なブラウスは!? どうしてノーメイクなのに爪だけピカピカしてるんだよ!? バランス感覚崩壊し過ぎだろ!! と内心パニックになりながら、僕は無言で求職票を差し出しました。データ登録作業をしながら、森永さんは色んなプリントを僕に手渡してくれました。

僕「あ、あの、一般窓口ではどういう風に仕事を探すんでしょうか?」
森永さん「これをちゃんと読んでね?」

そう言いながら森永さんは、プリントに書かれたアドレスを「ここ、ここよ!」と指さしました。

森永さん「オールナイト!」
????????????
僕「な、なんですかそれは……」
森永さん「はぁ? だから、オールナイト! よ。オールナイト! わかる? わかりますか?」

森永さんは何故か両手を天高く広げながら、熱っぽく何度もその言葉を繰り返しました。

僕「オールナイト……とは…………?」
森永さん「あなたおうちにパソコンないの? スマートフォンとかは?」
僕「あ、いや、その、持ってますけど」
森永さん「だったら、オールナイト! でしょうよ……」

良く分からないながらもおぼろげに意味がつかめてきました。どうやら森永さんは、このアドレスにアクセスすれば、ネットでいつでも求人情報を見ることが出来るよ、と言いたいようなのです。

……うん、さっさと帰ろう!

最後にクリエイティブな分野の求人情報の印刷をしてもらってから、僕はハローワークを脱出しました。ハローワーク、無職には刺激が強すぎたな……。

家に帰って、なんとなしに求人情報を眺め「職種:コピーライター 仕事の内容:社長の指示で処理・段取を行う。・話された内容を文書化・部門への指示伝達・スケジュール管理」コピーライターという言葉がゲシュタルト崩壊していきそうな記述にそこはかとない狂気を感じながら、ふと疑問に思いました。

求職票に、苦し紛れで咄嗟に書いた「クリエイティブな仕事」という文言。自分でも驚きでした。

そんなこと、とっくに諦めたはずだったのに。

大学時代の就職活動、出版社や広告代理店、新聞社にテレビ局、僕の周囲の人間たちはみなこぞって華々しい会社を受けまくり、その全部に落ちて、就職浪人したり内定がないまま大学を卒業したりしていました。あの手の大手企業はどこも採用率が極端に低く、志すだけで路頭に迷いそうな予感がした。うちは貧乏だし、大学も奨学金だし、そんな可能性の低い未来に賭ける余裕、全くないぞ。サークルで、自主映画を制作したり、漫画を描いたり、大学新聞にコラムを寄稿したり、それでもう十分満足したじゃないか。そして僕は全然興味のない一般企業に、大嘘の志望動機を並べ立てて入社。

という訳で僕は、そんなキラキラした職業への希望、さっさとすっぱり捨て去ったつもりだったのですが。ましてこの年齢で、無職になって空白期間も三年近いのに、そんな仕事につけるわけもないし……。

そこまで考えたとき、あのお姉さんの言葉が急によみがえってきました。

僕には、働くということに対する物事の捉え方に、致命的な問題がある。働く、ってなんだろう? あのお姉さんは、すごくちゃんと働いていた。ちょっと、かっこ良かった。

この連載が終わるまでに。

ちゃんとした納得のいく答えを見つけないといけないんだな、と思いました。そう思うと何故か、背筋のあたりがぞくりとしたような気がしました。

怖いな。

それは僕がずっと、28年間避け続けてきたことでした。怖くて怖くて、しょうがないな。

いつも通りのスケジュール、澄んだ朝の空気を吸いながら、午前5時に僕は寝ました。

奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。無職になってからこのかた、電車に乗るとき、ちょっと緊張してしまう。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

backno.

奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/