
安西水丸『東京美女散歩』(講談社)
こないだ近所の書店で「散歩本」のコーナーができているのが目に入った。東京の史跡めぐりだとか下町案内だとか様々な本がたくさん平積みされて置かれている。書店員に訊ねると購入しているのは、主に中高年だという。ウォーキングなどの健康志向の趣味と相まって、こうしたまち歩きのガイドブックの人気が高まっていて、定期的に「散歩本フェア」を開催しているらしい。
テレビでも散歩番組には根強い人気がある。「散歩」と言えば、地井武男から番組を引き継いだ加山雄三の『若大将のゆうゆう散歩』(テレビ朝日系)が有名だけれど、フジテレビでは日曜の午前中に散歩番組の枠ができている。この枠には、有吉弘行がホストの『有吉くんの正直さんぽ』と、『ぶらぶらサタデータカトシ温水の路線バスの旅』に加えて、今年の4月から女子版の『正直女子さんぽ』が放送されている。日曜日はテレビ東京の『モヤモヤさまぁ〜ず2』が夕飯どきに放送されているから、なにも予定がない休日にぼんやりテレビを見ていると、芸能人が散歩をしている映像を見続けて一日が終わる、ということになりかねない。
ひな壇に座った芸能人がVTRを見たり、専門家の先生方をイジッたり、ありがたい話を聞いたりする騒がしい番組よりも、落ち着いて観ていられるところが散歩番組の好ましいところだ。時折、興味が引くものもあれば、自分もこの場所に行ってみたいな、と思うことがある。中高年に混じってまち歩きするのもなんだか楽しそうだし、知らない土地の渋い飲み屋に入ったりしてみたい、とも思う。
とはいえ、実際に行動に移すことは限りなく少ない。要するに、私は家に篭っていても、どこかに行った気分になれる、散歩番組や散歩本のありがたさが好きなのだった。
過ぎ去っていった女性たちを辿る散歩
さて、今回は昨年亡くなったイラストレーターの安西水丸の『東京美女散歩』(講談社)をご紹介したい。ひとえに散歩と言っても語り口や切り口は様々だ。こちらは2007年〜2014年まで隔月で『小説現代』に連載していた、文字通り、著者が東京のあちこちを散歩しながら、史跡や思い出を綴るエッセイをまとめたもので、そこに「美女観察」という要素が入っているのが面白い。
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