「ほんとにいい女は、夜遅く渋谷や六本木をふらふらしておらず、家で読書をしたり音楽などを聴いている。ずっとそんな風におもっている。/そんな伝から、今回の美女散歩は、やはり東京で一番ほんものの美女がいるといったらここだろうなと、日比谷から丸の内、銀座へと歩いてみることにした。」
……などと男の勝手な妄想が書き連ねられている本と言っても良いのだが、著者はすれ違った美女を細かに観察して、好き勝手に批評している。この文章を読んだ女性のなかには「世の男性は、こんな下品な目線を持って生活してるのか……(キモい)」と怒る人もいるだろうけれど、私は読んでいて「そうだよね、歩いていて美女とすれ違ったら、そりゃあ、ガン見しちゃうよね」と大変な共感をもって読んでしまった。すれ違う美女たちはイラストで再現されてもいて、あの独特のふにゃふにゃとした絵では、まったく美女具合が伝わらないところも味があって良い。
これだけでは、女性の品定めをして歩く不躾な高齢者のエッセイ、で終わってしまう。この本のスゴいところは、筆者がその土地で過去に関係をもった女性たちを思い出して書いているところだ。たとえば、吉祥寺を散歩した回では「若い頃(と、いっても三十歳だった)、吉祥寺に住む人妻と不倫関係にあった」だとかサラリと書いてある。恵比寿に行けば、かつてホステスに「わたしおっぱいの形には自信あるの」と耳元で囁かれ、その後、アレコレあった、とある。
この本で筆者は、街を巡り、現代の美女を観察しながら、同時に過去に自分が(自分を)通り過ぎていった女性たちを辿る散歩をしているわけである。なかには既に亡くなった女性についての記憶を綴っていてしんみりきてしまうところもある。老いたドン・ファンの著作と言われても違和感のない異色の散歩本なのだった。
モテたなどと筆者は自慢をしているわけではない。ただ、さぞかしモテたのであろうなぁ……という察しはつく。著者はガンガン女性を口説くわけじゃなさそうだし、特別なハンサムでもない。晩年はなんだかヤギみたいな顔をしているし。ちっとも、モテる理由がわからない。「イラストレーター」という華やかな感じのある職業で、雰囲気がある男性……そういうのって、やっぱりモテるんでしょうか。
■カエターノ・武野・コインブラ/80年代生まれ。福島県出身のライター。Twitter:@CaetanoTCoimbra
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