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朝井リョウに見る「多数派の思い込み」としてのコミュ力

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朝井リョウのコミュ力とは

 その上、既婚者が多い『ドリーム モーニング娘。』のファンが「アイドルを応援する目線」で彼女たちを応援していたことに対して、朝井リョウは「人間欲を満たした人たちでもアイドルが出来るってことを、証明された気がしたんです」と評価しています。女性が結婚したり出産したりすることを、これまた“自然”に『人間欲』と定義されていることにも驚きです。

 (異性と)結婚したり、子供を産むことは、“人間として”の欲望なのでしょうか? 異性愛者で子供を残したい女性にとって、たしかにそれらは生きる喜びのうちのひとつでしょう。ですが、世の中当然異性愛者だけ存在しているわけでもありませんし、結婚願望がない人間も、子供を絶対に残したくない人間もいます。

 そうした“自然”ではない人々の悲喜こもごもは、「スムーズなコミュニケーション」という面において非常にしばしばとりこぼされ、捨象されてしまいまうこともあるように思います。

 阿川さんが朝井さんの言葉に対して、「うーん……」と言葉を飲み込んだように、誰かが思う多数派や当たり前、“自然”の定義に異を唱えないことで進むコミュニケーションのことを、「コミュ力」「高EQ」ともてはやすのもどうかと思います。

 それに、物事を円滑に進める「コミュ力」というやつが、「ヘテロノーマティビティー(異性愛を標準ととらえる価値観)」や「ヘテロモノガミー(異性愛において一対一の関係を優先する価値観)」や「異性愛者男性の価値観」の上にどっかりと腰を据えた上で効果を発揮しており、とりこぼされた少数派が自らを捨象することが期待される状況を「コミュニケーション」なんて言いたくありません。

 自分に求められているのは「その時代特有のものを書く」ことである、と言う朝井リョウですが、保守的な現代を写しとる能力に長けている作家なのか、彼自身が意外と保守的であるのか、この対談からはわかりませんでした。ですが、私の中では「将来議員に立候補しそうな人」ランキング現在首位独走中です。

■  柴田英里(しばた・えり)/ 現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。Twitterアカウント@erishibata

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」