インターネット上でたびたび盛り上がる「ベビーカー論争」。「電車内でベビーカーをたたむべきか」について何度も熱い議論が交わされてきましたが、いまだにその結論は出ていません。実際、2015年4月に行われた【messy調査】でも、「混雑したバスや電車ではベビーカーを折りたたむべきだと思いますか?」という問いに対して、「たたむべき」「そもそも乗るべきでない」と答えた人が約6割、「たたまなくていい」と答えた人が約4割と意見の割れる結果でした。
育児者への身体的負担を考えるとベビーカーは非常に便利なものです。しかし、車内混雑時のベビーカーはときに事故の原因にもなりかねません。制度・システムの面からこの問題を改善、あるいは解決することはできないのでしょうか。交通政策を専門とする宇都宮大学大学院工学研究科教授の大森宣暁さんに伺いました。
ベビーカーで移動しやすい社会をつくれるか
大森さんによると「ベビーカー論争は日本特有のものである」といいます。日本よりも古くからベビーカーが普及しているはずの欧米で、なぜベビーカー論争が起きないのでしょうか。その理由について大森さんは次のように語ります。
大森「欧米のベビーカーは大きく、たたむことができない製品が多いので、そもそも〈たたむべきかどうか〉という議論になりません。そして、欧米の電車は日本のように混雑しないんですよ」
たしかに「たたむべき」「乗せるべきでない」派の理由を見てみると、「電車の混雑時に危険・邪魔である」という意見が大多数を占めます。もし、電車が混雑しなければ、ベビーカー論争が日本でこれほど大きな話題になることはなかったでしょう。ベビーカー論争を根本的に解決するには、通勤時間をずらし混雑を緩和するといった社会構造の変革が必要なのかもしれません。
また、「たたむべき」「乗せるべきでない」派には、ベビーカーが電車のドア付近を塞いでしまうことを問題視する人もいるようです。これは欧米で普及する大きいベビーカーならば、なおさらのはず。欧米の国々ではどのようにこの問題を解決しているのでしょうか。
大森「欧米の電車やバスでは、車両に車いす・ベビーカー用の優先スペースが設置されています」
このようなスペースがあれば、ベビーカーで入口を塞いでしまう心配もありませんね。実はこの優先スペース、日本の電車でも徐々に普及していることをご存知でしたか? 2000年に「交通バリアフリー法」が制定され、公共交通機関のバリアフリー化が義務づけられたことを機に、多くの鉄道会社で車いす用優先スペースの導入がはじまりました。さらに2014年3月、国土交通省や鉄道・バス事業者からなる「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」が「ベビーカーマーク」(下図)を作成したことで、車いすマークとベビーカーマークをともに掲出した優先スペースが増えつつあります。
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