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無職が無職をやめるとき 不仲の父とバイキングにいってきた

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お父さんはもしかして、僕に甘いのかもしれません

うどんコーナーには常駐の担当者がいないらしく、代わりに入ったステーキ係のホセが「俺こんなことするために日本に来たんじゃないんだけどナ」って顔でひたすらうどんを茹でていました。いたたまれない気持ちになって、うどんを諦め、チンジャオロースなんかをよそって席に戻りました。「お父さんも食う? 中々うまいよ」すすめようとすると、何故か睨まれてしまいました。そこに母が「お父さんね、実はピーマン嫌いなのよ」と言いました。

へ?

母「あなたが好き嫌いのない子供に育つようにって、ずっと我慢して食べてたの。その嘘をバラすタイミングが中々、なくて」

なんだそりゃ、という感じでした。そういえば僕も、つまらない嘘を肉親や恋人につき続ける変なところがあるけど……。「さて、デザートでも食べるか」と父が席を離れたとき、また母が口を開きました「会社やめて一年音信不通だったとき、あなた本当に自殺してるんじゃないかって、私たちずっと心配してたのよ。家出するみたいに大学の途中から家飛び出して、正月盆暮れにも滅多に寄りつかないと思ったら、急にスカンピンで戻ってきて」「てか、僕ってそのうち追い出されるよね? そりゃ当然だけどさ」「結構楽しんでるのよ、私は。もしあなたがあのまま働いてたら……東京と京都でずっと離れたまま、全然家に帰って来ないで、親と話そうともしない。世間的には恥ずかしくない子供でも、ほとんど話す機会も時間もなくて、もう一生マトモに口きくこともなかったかもしれないな、って思うし。お父さん、最近言うんだけど。あいつがとりあえず、生きてたらそれでいいって」

なんだそりゃ。なんか僕の親ってかわいそうだな……。生きてるだけでいいなんて、そこまで追い込まれてるのか……。子供の頃はそこそこ自慢の息子だったのにね。

母「お父さんね、実は大学中退してるのよ。学生闘争にのめり込んで」
僕「は? 嘘でしょ???」
母「フリーランスから始めて、そのままたたき上げで管理職までなったけど、大学やめるときは部屋に10日ひきこもって外に出てこなかったんだって。それで、ちゃんと就職しなかったからって、婚約者にもフラれてね。それに本当はね、若い頃、東京行きたかったんだって。でもおばあちゃんを見捨てられなかったから、こっちで仕事探したの。だからね、色々あなたの気持ちがわかんないこともないのよ。怒ってないこともないんだけどね」

お父さんは相変わらずほとんど何も語りません。でもそういうものなのかもしれません。考えてみれば、僕もお父さんに何か自分のことを話した記憶が思春期以降、マトモにない。それが今さら。会話がないのが、僕たち親子なのかもしれない。それでいいのかもしれない。和解はいらない。わかりあえない。それでも、まだ少しだけ新しい時間があるのかもしれない。わからないけど。

帰りに立ち寄ったヨドバシカメラ、マッサージ機コーナーで揺れ続ける母を残して、父と二人で家電を見て回りました。ガシャポンコーナーを通り過ぎようとしたとき、ああそうだ。ふっと思いついた僕は、数歩先を歩いていた父の背中に声を投げました。

僕「おーい、お父さん、ガシャポン買ってちょ!」

振り返った父の顔は、お前正真正銘のアホか? と言いたげな表情をしていました。「早く早く、僕財布ないんだから」とうながして、アニメのガシャポンを買ってもらいました。子供のとき、一度も買ってもらったことがない。それも我が家のちょっと変わった教育方針の一つでした。そんなガシャポンを買ってもらって。それから僕は、思いっきり笑いながら、こう切り出しました。

僕「今度、旅行に行こうと思うんだけど、お金頂戴よ」

そう口にしてから、いつか大学時代の先輩に飲みにつれていってもらったとき、「俺も25くらいで内定出ずに卒業してブラブラしてて、ある日オヤジに号泣されてさぁ。こりゃなんとかしなきゃな、って思ったね」と先輩がこぼしたエピソードがふっと頭をよぎりました。

僕、もし今お父さんが泣いたら、多分根性ないから、無職やめちゃうかもなぁ、と思いました。

父「お前……いい加減にしろ!! ふざけるんじゃない!!」

結局、お父さんはシャレにならないくらい激怒したので、僕は内心なんだか、ほっとしてしまったのでした。そして3時間かなり激しく怒られたあと、結局、旅行に行っても良いことに、なったのでした。

奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。たまに外に出ると翌日筋肉痛で寝込みます。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

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