6月11日に発売された、元少年A著『絶歌』(太田出版)が依然として様々な波紋を呼んでいます。
遺族に無許可での出版であり、遺族から販売中止と回収の訴えがあるにも関わらず、Amazonではランキング1位であり、10万部売り切りという形での出版の為、転売屋などによって定価の倍から10倍の値段がつけられています。太田出版は、回収の意向はないことを公式サイトで説明しました。
6月17日現在、Amazonの『絶歌』のブックレビューは、1000件以上寄せられており、そのほとんどが、本を買っても読んでもいない人たちによる「正義のクソコメ」であり、そうしたたくさんのブックレビューによって、より一層『絶歌』が話題になるという問題もあります。
殺人犯の手記がバカ売れすることも、その本が高値で取引されることも、はっきり言って悪趣味極まりないと思いますが、本を買っても読んでもいない人が、“正義感”によって、「この本は絶対に買ってはいけない!」とブックレビューを書くことも同様に胸くその悪いものです。
この本の出版や流通を止めたいのであれば、出版社や取り扱っている書店、Amazonカスタマーサポートに抗議するべきであると思います。
本を買っても読んでもいない人たちの「正義のクソコメ」が大量に可視化されることは、「匿名の正義」と「匿名の暴力」が表裏一体であることの証明ではないのでしょうか。
凡庸な悪と凡庸な孤独
こうした本が遺族の意向を無視して出版され、バカ売れしてしまうことは、資本主義社会の中ではある意味必然です。『絶歌』は、資本主義社会の産み落とした「鬼子」に他ならないと思います。
『絶歌』という「鬼子」が世に出たことのたった一つの意義は、私たちが当たり前に持っている「凡庸な悪」を可視化させたということに他なりません。