カルチャー

庵野秀明・安野モヨコ夫妻の深い愛情に学ぶ

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男の人と一緒にいてこんなにリラックスしたことはなかった

 だからといって、「オタクは夫にするのに最適だよ♪」とは決して言えない。ダブルアンノ夫妻が深い愛情を抱いて結婚生活を送れることと、旦那がオタクであることは、別に関係がないからだ。ひとつだけポイントがあるとしたら、「互いに気が合う相手を見つけた」、これだけだろう。

 またも「文春」阿川佐和子対談から引っ張り出してくるネタになってしまうが、06年に同コーナーに登場した安野モヨコは、

私は本気で結婚したいと頑張ると頑張りすぎちゃって相手が疲れるんじゃないかな。今のダンナと付き合って初めて、一日中、二人でベッドでごろごろしながら「女帝」っていう漫画を全二十何巻読んで。あ、こういうことしてても大丈夫なんだって思った。自分が男の人と一緒にいてそんなにリラックスしたことはなかったんです。

 と明かしている。同様の話は、前出の座談会でもしている。よほどこの出来事が決め手となったのだろう。

カントクと付き合い始めて私がすごい楽だなって思ったのは、『女帝』を読みたいって思ってた時にカントクが全巻買ってきてくれて、しかも「1冊読んでは相手に渡す」っていうのを二人で繰り返して1日過ごした時! それでもいいんだって思った。

その後夜ご飯食べに行って二人で「『女帝』にカンパーイ!」って(笑)。普通の男子と付き合っていたときは、なんとなく相手に「1日中マンガ読んでた」って言えなくて、「エクササイズしてた」とか軽くウソついたりしてたんだけど(笑)。漫画浸りな自分に自分でダメ出ししてたんだと思う。カントクはそのへん気負いがなくて、そういうことを全く隠そうとしない。そういう意味で自分は不純であったなあと。 

 執事に監視されて育つような生まれついての高貴な身分ならばいざ知らず、ほとんどの独身男女は自宅で「ダラ~ん」と過ごす幸せな孤独を知っているだろう。そんな自分を「ダメだダメだ、もっと頑張ってキラキラしてないとっ!」と叱咤し、つい嘘をついたり見栄を張ったりしたくなってしまうような異性とは、おそらく「合わない」。そんな相手と結婚し、何十年も同じ家で暮らすことは拷問に近い。どんなに頑張って素敵な「結婚式」をしたとしても、ハッピーイベントの先には荊の道が待っている。リラックスした姿をさらせない相手、だらしない姿を許容できない相手との結婚生活は、誰にもおすすめできない。

 安野モヨコは08年3月から、体調不良による休養生活に入っており、当時連載中だったいくつものマンガ(『オチビサン』を除く)は休載状態のままだ。病名やその後の体調が明かされずにいるため、ネット上では「うつ病」「不妊治療」など好き勝手な憶測が飛び交っている。描きたいのに描けないのか、もう描きたいと思えないのか、苦しいのか、楽になったのか……漫画家本人がどのような心境でいるかはわからないが、今の彼女を庵野カントクが「全力で守っている」のだとしたら、いち読者が心配の声や復帰熱望のエールを送るべきでもないのかもしれない。たとえ仕事を再開できなくとも、彼女の日々は空虚なものではないだろう。
(清水美早紀)

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