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エヴァンゲリオンに手を噛まれないためにはどうしたらいいですか?

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はぁ…………………………………………………………奥山村人です。

生きてるって虚しいですね。いわゆるひとつの、虚無~ってやつです。

みなさんはこの一週間、お元気でしたでしょうか? 僕はなんか知らないけど虚しくて虚しくてしょうがなかったです。梅雨のせいか、心までじめじめとして、心臓にカビが生えそうでした。

さて、今回は超ぬるいペットエッセイです。

僕、犬が嫌いなんです。嫌いというか、苦手です。怖くないですか? 吠えられるし噛み付かれるし、恐怖しかない。狭い道で散歩中の大型犬とすれ違うときなんか、怖すぎて回れ右して逃げ出すくらいです。犬は僕を見るとなぜか絶対にギャン吠えしてくるんですよ。

天性のいじめられっ子オーラ、生物としての弱さを鋭くかぎつけて、僕を捕食しようとしているのかもしれません。無職なんか別に食べてもおいしくない気がするのですが。佐川一政だってジョーズだって無職は避けて通るでしょう。

そんな僕の異常な犬嫌いを「どげんかせんといかん」とある日父は思ったようなのです。僕が高一のとき「犬飼うぞ」と突然言い出しました。父と仲良くする方法を相談した「ゆとり世代と団塊世代は仲良くなれますか?」にも書いたように、父は基本的に荒療治が好きな男なのです。そのときテレビでは『十五才 学校IV』が流れていて、僕はマジで家出しようと思いました。カラオケで一晩寝泊まりして、家に帰ってきたらもう犬種の選定が始まっていました。「トイプードルを飼うことにしたのよ。小型犬なら、村人もまだ怖くないでしょ」と母。数日後、うちに白のトイプードルがやってきました。

父「名前は、村人が決めるんだ」
僕「じゃあ、エヴァンゲリオン」
父・母「は!?」

僕は嫌がらせのつもりでそう言い、それから二人に実際に『新世紀エヴァンゲリオン』の第一話を見せました。「人の作り出した究極の人型汎用決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン、我々人類の最後の切り札よ!!」気分はもうヤケクソでした。

母「うーん、このアニメ、一体何なの……?」
僕「僕が一番好きなアニメなんだ。だからこの名前をつけたら、そいつのことも好きになれる気がする」

我ながら適当なこと言うなぁ! と思いつつ、こうして我が家の犬は「エヴァ」と呼ばれることになりました。

「うちの犬、奥山エヴァンゲリオンっていうんですよ」「なにそれ! めっちゃイライラする!(某編集者・ライター)」

宍戸錠の犬の名前は「サダム・フセイン子」で、パリス・ヒルトンのチワワは「Tokyo Blue」と「Harajuku Bitch」らしいですね。でも名前の奇妙奇天烈さで、うちの奥山エヴァンゲリオンもパリスやジョーにひけはとりません。

散歩してると、いずこから接近してくる「犬かわいいねオバチャン」っていますよね? あれ使徒なんですかね? 「まぁ~かわいいわね~あら~」みたいなこと言いながら犬を勝手に撫でたくりだし、愚にも付かない世間話を差し向けてくる類の人種です。僕は人間が大嫌いなので、目も合わせたくないのですが。

オバチャン「なんてお名前なのぉ~」
僕「奥山エヴァンゲリオンです。新世紀エヴァンゲリオンのエヴァンゲリオンからとった名前です。あんたバカァ?……むふふ……」

と過剰に薄気味悪い調子で言ってやると、誰もがささささーと波みたいに引いていきます。そのときばかりは、中々良い名前をつけたものだなと悦に浸ることが出来るわけでした。

そんなエヴァンゲリオン(♀)なのですが、無職になりかれこれ6年ぶりに実家に帰ってきた瞬間、僕を思いっきり噛みました。

エヴァ「働け!!」

と思っていたかどうかは定かではないですが、とにかくこの犬、僕をよく噛みます。尋常じゃなく。おかげで僕の手は半日常的に血だらけ、もしエヴァがゾンビ犬なら、僕はとっくにゾンビ化しています。無職ゾンビ……なんだか目眩がするくらいダメな語感ですね。

「動物に好かれない人って信用出来ないよね。動物は心を読むんだよ。つまり、奥山くんって心の汚い残忍な人間なんだよ」

と複数の女性から似たようなことを言われてしまう始末です。こういうこと言う人って絶対いますよね? 一体どういうことなんですか? おかしくないですか? どう考えても、何もしてない僕を噛んでくるエヴァの方が残忍な輩だと思いませんか!? 理不尽過ぎる!! いや、もしかして、毎日何もしてない無職だから噛まれるのかもしれないですが……。世話をしようにも噛まれてばかりで、どうにもしようがありません。

はぁ…………………………………………………………。

大体、うちはエヴァのしつけに失敗していて、誰彼構わず、気に入らなければ客ですら手を噛むんです。それでも、父や母を噛むことはないし、僕も高校時代は噛まれたりしなかったのですが。そういえば、犬の記憶は数年しかもたないと聞いたことがあります。もしかしたら、エヴァはもう僕の顔を忘れていて、どこからともなく謎の無職がやってきて家で惰眠をむさぼるようになった、と解釈しているのかもしれません。どこからともなくやってくる謎の無職って、もうホラーでしかないですよね……。

そこで今回の相談です。

今回の相談

「エヴァンゲリオンに手を噛まれないためにはどうしたらいいですか?」

と、ここまで書いたところでしかし、ふと気づいてしまいました。多分何をやっても無理だな、と。エヴァも13歳、今さらしつけをし直す歳でもないし、どうやっても僕は噛まれ続けるんだと思います。その運命はもう受け入れるしかない。それはいいんだけど。

もう多分、エヴァはそんなに長く生きられる訳じゃないんですよね。両親より先に死ぬと思う。この連載中に死ぬ可能性すらある。エヴァがうちに来た高校生のときから、13年も経つのに、僕の内面は全く成長していません。今も高校生と全く変わらない精神年齢です。だからなのか、エヴァの死を想像すると、少し憂鬱な気分にもなります。だってこのままじゃ、エヴァが死んでも、悲しくないかもしれない。エヴァが生まれて死んでいくこの一生の間に、何も変わらなかったという現実を突きつけられる前に。僕はエヴァのことが好きになりたい。噛まれてもいいから、せめて僕はエヴァのことを好きでいたいのです。

「どうすれば苦手意識を持つことなく、エヴァンゲリオンに深い愛情を抱くことが出来るのでしょうか?」

教えて下さい。お願いします。

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奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。元カノのことはまだ諦めてないらしい。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/