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『マッドマックス』におけるフェミニズムと、マゾヒズムによる権力の解体

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聖母にならなくていい妊婦

 ババアたちもヒラヒラの服を着たワイブズたちも、タフでカッコイイ戦士フュリオサも、一人一人が自分のこれからの生を考え、協力して戦い、成長していく様はもう本当に最高なのですが、個人的には、自らを性奴隷として征服したイモータン・ジョーとの子供を産んで育てることが出来るか悩んでいた臨月の妊婦「スプレンディド・アングラード」が、子供を産み死ぬ“聖母”ではなく、自らの意思で戦い、その結果殉職したことにもっとも祝福を送りたい気持ちになりました。これは、「中絶」のメタファーでもあるからです。

 多くの映画では、妊婦や子供は死なない仕様になっているし、妊娠した女性には「母性」のようなものが芽生えて無条件でお腹の中の子供を愛してしまう。ですが、現実の世界は、お腹の中の子供を100%祝福できるような女性ばかりではありません。

 中絶は、世の中では、あくまで必要悪であることは変わらないと思います。だけどもし、レイプされ妊娠した女性が中絶の選択をしたとしたら、私は、「あなたはとても勇敢で、正しい選択をした」と心から祝福してあげたいと思っています。大きな被害にあって悩んだ末に、それでも自分がより良く生きることを考え選んだ人間の勇気は、守られるべき尊厳であると考えるからです。

ファシズムの「被害者」は、それを崩壊させた「加害者」でもあり。

 さて、ネット上では主人公「マックス」ほぼそっちのけでフェミニズム談義が繰り広げられている『マッドマックス』ですが、私は、この映画の中には、フェミニズムだけでなく、「マゾヒズムによる権力の倒錯と解体」も描かれているように思います。

 序盤から2度も「名誉の戦死を遂げること」に失敗したナードでイルなウォーボーイ「ニュークス」(どことなく育ちが良さそう)は、途中からマックス、フュリオサ一味と行動をともにし、「死を希求する」ことから、ワイブズの一人である「ケイパブル」と生きることに希望を見いだし、「車の修理」など、破壊ではなく修復する行動を取り始めます。

 ニュークスの変化を、愛による成長と呼ぶこともできるのかもしれませんが、やはり私は、ニュークスには、自衛隊に入隊した三島由紀夫的な、マゾヒズムによる権力の倒錯を感じました。「華々しく死ぬこと」に失敗し続け、その回復を試みることこそが、彼にとっての「生」であり、終盤でようやく彼は彼の「生」を全うしたのだなあと感心しました。

 ウォーボーイズたちだけでなく、なぜかスーツの胸部に穴を開け、両乳首を露出している「人食い男爵」や、呼吸すら苦しそうなのに先陣をきってワイブズたちを取り戻すために奔走する「イモータン・ジョー」も、マゾヒスト的です。『マッドマックス』の世界で、一番イモータン・ジョーの帝国を壊したのは、他ならぬイモータン・ジョーその人だと思うのです。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」