連載

頭撫でて抱きしめて餌やってキスしてセックスしたら愛してるんですか?

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いざ散歩へ

道具に頼ることはやめて革手袋を外し、エヴァと共に外の世界に繰り出しました。エヴァと散歩に出かけるのも、十数年ぶりくらいのことです。時刻は夕方、学校帰りの小学生たちが、僕を不審人物でも見るような目で眺めてきますが、気づかないふりして歩を進めました。

ところが、です。

こてん、と。

家の前の路地の角、玄関から100メートルも進んでない地点で、エヴァが道路に寝転がりました。はぁ!? 目を疑いました。リードを引っ張ったり、声をかけたり、色々してみますが、全く身動きをとる様子がありません。その様はまるで、ぐずる赤子……。「しゃらくせぇ! 無職と散歩なんてしてらんねぇよ」と言わんばかりの行動です。散歩を拒否する犬なんて、見たことありません。あり得ない……。

一切身動きを取ろうとしないエヴァを抱きかかえて(そのときだけは何故かあまり噛まれませんでした)実家に戻り、僕は呆然としてしまいました。散歩、失敗だ……。

こうなっては仕方ありません。他の手を打つことにしました。試しに「犬かわいいねオバチャンになりきる」というコメントを参考に、「あらまぁエヴァちゃんったらかわいいわね、あらあら、おほほ」としつこくやってみたところ、「バカにしてんのか?」という感じでやはり噛まれてしまいました。

はぁ……。

ここでへこたれていても仕方ありません。散歩は断念して「噛まれない距離で終日共に過ごす」を実行しようと、僕はじりじりとエヴァに近づきました。噛まれないギリギリの距離を測ろうとしたところ失敗、やはり襲いかかってきました。

うーん、これはちょっと、場当たり的な方法では解決出来ない深刻な問題なんじゃないか、という気がしてきました。いや、わかってたんですけどね。そんな簡単にエヴァンゲリオンが僕になついてくれるはずがない。そこで再び、読者からいただいたアドバイスを読み返すと、すごく丁寧なコメントを頂いていたことに気がついたんです。

・今回のコラム内容から察するに、まずエヴァちゃんが奥山さんや時々お客様を噛む理由は、エヴァちゃんの大好きなご両親の注意が、これまで数年間ご両親の愛を独り占めしてきたエヴァちゃん以外の人に向けられて嫉妬するからだと思います。

愛されるより愛したい

このコメントに、ハッとしてしまいました。エヴァにとって、僕は愛情を注いでくれる存在じゃない。愛情を奪う存在に見えているんだ。たしかにそうなのかもしれません。いや、僕が両親に愛されてるかどうかはよくわからないですが……。この仮説を検証するには、まず前提として僕が両親に愛されているという事実を確認しなければなりません。そこで晩飯を食べながら、唐突に聞いてみました。

僕「僕って、愛されてるの?」
父親「……(無視)」
母親「アホなの?」

呆れられてしまいました。それでもしつこく食い下がると、母は「愛してなきゃ、無職でいていい、なんて言わないでしょ」とうんざりしたように言いました。へー……ふーん……なんでだろう、これっぽっちも心に響かないな。そういえば同じような台詞を別の人物からも言われたことがあったような覚えがあります。そんなことを思い出しながらエヴァに餌をやろうと立ち上がり、声かけようとしたら、「こっちおいでよ、ミョンちゃん」つい間違ってこの場にいない人物の名前を呼んでしまいました……。両親が驚いたようにこちらを見てきます。

僕「あいつが『エヴァを私だと思ってかわいがってね』とか昨日電話で言うから、間違えたんだよ」
母親「こんな無職のダメ息子と、まだ付き合ってくれてるなんて、ミョンちゃんってほんと、天使みたいな子ねぇ……」

と何やら母は感激したように声を漏らしました。やばい、物凄い勘違いをしている……。なんとか誤解を解こうとしましたが、母は勝手に自分の世界に入ってしまい、挙句の果てに「いつ結婚するの?」と言い出しました。「無職と結婚する人間が一体どこの世界にいるんだよ! 頭、お花畑か!?」イラついて叫ぶと、エヴァが僕の服に思いっきり噛みついてきました……。

やっぱり、頂いたコメントの通り、僕はエヴァから愛情を奪う存在であったのかもしれません。というか、僕はエヴァと同じ目線で生きていた。誰かから愛情を受けることだけを考えていたのかもしれません。両親や、異性から。でも、限られたパイを奪い合うようなことじゃなくて、もっと愛情を増やすことを考えないと。僕が愛情を供給する側に回るべきなんだ。そこまで考えたところで、僕はがく然としてしまいました。

今回も相談「愛って何ですか?」

……相談ばかりしてすみません。

いつも口先では「好きだよ」「愛してる」なんて、その場しのぎでテキトーに言ってきたけど、愛するってことがわからない。なんかつまらないSFのロボットみたいな言葉ですが、でも、本当にわからない。それがわからないのに、愛し方だけをきいて、その上辺だけとりあえずなぞってお茶を濁し、ちょちょいのちょいと原稿を仕上げちまおう、なんて気でやっていたから、今回何もかも、うまくいかなかったのかもしれません。僕は連載を、読者をなめていた気がします。

「人を愛するってことが、いくら考えても、どういうことかわからないんです」

そう、ずっと言っていた。そして、自殺した。女の子の友だちのことを、思い出しました。

いまさらこんなこと、現実の世界で面と向かって誰にも聞けない。倫理の授業のディスカッションじゃないんだから。青臭くて恥ずかしくてバカらしくて。でも、わからないんです。わからないのに、わかったふりして、誤魔化して生きてきたようなんです。

頭撫でて抱きしめて餌やってキスしてセックスしたら愛してるんですか?

それとも、こんなことで、悩んでるのってバカなんでしょうか? 皆さんは、当たり前にそんなこと、わかってるんでしょうか? 知っててわかってて当たり前のことなんでしょうか。だとしたら本当に教えて下さい。このままじゃ、いけないってわかってるハズなんです。

どうしたら、自分以外の存在を、愛せるようになるんですか?

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奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。よく人に物を借りたまま返さない。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

backno.

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/