細田守監督作品『バケモノの子』を観てきました。
映像がきれい(とりわけ、光と影を映す鏡面としての水の描写が美しい)で、ストーリーもまあ面白かったものの、観終わった第一の感想は、「細田作品のヒロインって、毎度のことだがすぐ妊娠しそうだな……」でした。
あなたと私の共依存
「すぐ妊娠しそう……」というのは、自己評価が低いゆえに共依存スイッチが入りやすく、辛くても脳内麻薬で認識をゆがめて「私とっても幸せ!」と言って周りの助言を突っぱねてしまうので、取り返しのつかないところまで加速しやすいタイプの女性を表した言葉です(すべての妊娠や出産そのものを、共依存の結果だと見ているわけではありませんので悪しからず)。
『サマーウォーズ』のヒロイン篠原夏希も、『おおかみこどもの雨と雪』の花と雪も、『バケモノの子』のヒロイン楓も、本当に21世紀の女性を描いたのだろうか? とびっくりするくらい内面がなくて、「男のために存在する」以外のアイデンティティが与えられていません。
『サマーウォーズ』の篠原夏希は主人公の通う高校においてアイドル的存在ながら、美しいことと若いことしか取り柄がありません。作品内で唯一の彼女の見せ場は花札バトルの代表として戦うシーンですが、花札好きの親族が大勢いる中でなぜ彼女が代表に選ばれたのか、理由は明かされません。彼女の行動に賛同し、花札の賭け金がわりの命(アカウント)を託す大勢の人々が現れたことも、親戚のおじさんは「(夏希が)美しいからだ」と評すなど、典型的なトロフィーワイフです。
『おおかみこどもの雨と雪』の花は、頑張って国立大学に入学したのにおおかみ男と恋愛して妊娠し、大学に行けなくなってしまいます。花の場合、両親がおらずアルバイトで生計を立て学費も捻出しなければならない苦学生だったから……と理由付けされているのかもしれませんが、友人らしき影が皆無です。学生が学業をおろそかにすること事態そもそも問題ですが、学業以外の交友関係がオオカミ男との恋愛関係だけという共依存環境は、学生でなくても避けるべきです。娘の雪も、出自や思春期の悩みを抱えてはいますが、彼女の悩みは「好きな男の子に受け入れてもらえた」というただ一つの理由で雲散霧消してしまいます。
最新作『バケモノの子』のヒロイン楓は、前二作のヒロインに比べて登場時間が短いゆえに、ジェンダースタディーズ的な視点から叩かれることは少なそうですが、それでも、短い登場時間の中で彼女が「主人公の少年・九太(蓮)のため」以外に存在することはありませんでした。母子家庭の一人っ子だった蓮は9歳で母と死に別れ、バケモノの世界に迷い込みます。めちゃくちゃ強い熊のバケモノに弟子入りし“九太”という名前をもらい、修行を詰んで成長します。17歳で人間界とバケモノ界を偶然にも行き来することが出来るようになった九太は、進学校の女子高生・楓と出会うのです。
楓は九太のために勉強を教え受験の準備をし、八つ当たりされてもやさしく受けとめ、夜分に呼び出されたらすぐ向かう。いつでもどこでも手数料もなしにプライスレスなケアが引き出せるATMみたいです。
『時をかける少女』は別としても、これら作品のヒロインたちは、「共依存スイッチ」を押しやすいタイプの女性として描かれているように見えました。