連載

実践! 人を不快にさせる癖の治し方

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無職伊豆旅情編

僕が、フラれてから何年もたつのに未だに引き摺っていて、messyで女子会の帝王・KENJIさんに相談した結果「忘れなさい」と言われたにもかかわらず、アドバイスを無視して会いに行き、みっともなく復縁を迫り続けている元カノのミョンちゃんと電話していたときのことです。ミョンちゃんはというと、この連載を読んで色々と思うところがあったみたいで、ショックで寝込んでしまい、一週間丸々会社を休んでしまいました。その後も通勤中にぶっ倒れて救急車で運ばれたり、心身のバランスを崩していて、深刻にヤバいわけです。

僕「そういや、今どのへんに住んでるの?」
ミョンちゃん「教えない。過去の男が全員ストーカーになって懲りてるから。あんたが私の家にくることなんて、絶対あり得ないんだから、関係ないでしょ」
僕「じゃあ、今度から一体どこで会えばいいのさ」
ミョンちゃん「……伊豆旅行に行くよ」

と、ある日彼女が突然言い出しました。山奥のコテージをすでに予約したそうです。

金がないので関西から伊豆まで青春18切符で行きました。これ、在来線乗り放題の切符で、新幹線を使わずに乗り継いでいくことになるわけです。

途中、信号機が故障し、電車がストップ、代行輸送ということでJRが手配したバスに乗るなど、中々波乱万丈の道中を経て、結局12時間近くかけて伊豆に辿り着きました。以前にミョンちゃんと江ノ島に行こうとしたときも、事故で江ノ電が遅れてて、結局諦めるハメになったのでした。ミョンちゃんと会う日には、いつも電車が遅れる……。そういえばコメント欄に、「ミョンちゃんから離れろ!」といった内容の書き込みがあったことを思い出しました。まさか、読者の方々の怒りが生き霊となって、僕の運命の恋路を阻もうとしている……? はぁ……。

しばらく待つと、ミョンちゃんがやって来ました。江ノ島デートから約1カ月ぶりの再会です。

「奥山くんなんか、大嫌いだ」タクシーで山奥のコテージへ。このところ夜眠れず、昨夜も一睡もしてないという彼女は、そのまま倒れるように眠り込んでしまいました。

翌日、夕方に目覚めた彼女と共に、予約してくれていたフレンチを食べに行きました。「わたしの過去の男の話聞きたい?」と彼女は口にしました。無言でうながします。

ミョンちゃん「奥山くんって男がいてね。バカでなよなよしてて女々しくて頼りなくて気持ち悪くて屑でしょうもない無気力ダメ人間。ぺちゃくちゃお喋りな癖に、肝心なことは口にしないから、何考えてるか一つもわからない。5歳年下で、本当はすごく好きなのに、どうしても本気で付き合う気になれなくて、わざと冷たくしてた。それが今さらノコノコ現れて、ずっと言えなかった本音とやらをぶちまける、最低の自己中男。私の人生めちゃくちゃにしようとしてる。でも、遅いよ」
僕「でも好きなんだ。だって、好きなんだ」
ミョンちゃん「来週、両親の決めた男と会うよ。韓国人。多分、結婚する」

こともなげに彼女はそう言いました。返す言葉もありません。ミョンちゃんは眠り続け、僕は本を読み続けました。

翌日の夜も僕たちはドレスアップして出掛けました。わざわざ革靴にウールのパンツなんかはいて、ミョンちゃんも綺麗なワンピースを着ていました。男ってなんでワンピースが好きなんですかね。

さて、ところが夜の山道は、徒歩で行くにはあまりにアップダウンが激し過ぎて、グーグルマップが算出した時間通りには行きません。僕が予約したレストランに辿り着くと、もう閉店です、と言われてしまいました。……。相変わらずダメです。その後、いろんな店を探してみますが、どこも閉まっていました。親切な店員さんに教えてもらったコンビニまで、物凄い坂を登ってるうちに、すっかり汗だくになってしまいました。暗い夜に、控えめな街灯に照らされた木々の緑だけが映えていました。三時間近く歩き続けてコテージに帰り着く頃にはすっかり日付も変わっていました。「でもこんなの一生忘れないよ。フレンチのフルコースなんか糞食らえだよ。二人で深夜に食べたカップ麺のがおいしいね」ミョンちゃんはずっとニコニコしていました。

僕といるとミョンちゃんは不幸になるんだろうか。ふっと、そんな気がしてきました。

深夜、真っ暗なコテージの寝室で、声だけになったミョンちゃんが言いました。

「あなたは、きっと常に書くことで頭が一杯。今も、いつも。あなたは文章を書くことを選んだんだから、私より書くことを選んだんだから、その選択の責任を取るべきだよ。あなたが私と一緒になる、そういう未来はないの」

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

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