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実践! 人を不快にさせる癖の治し方

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偉大な文豪は最愛の人にフラれて傑作を書いた

翌日、小さな美術館で絵を見たりしたあと、タクシーで駅に向かいました。僕たち以外に誰もいなかった、寂れた美術館に飾られていたデヴィ夫人の写真が気になってしょうがありませんでした。何故に美術館に、デヴィ夫人……? という率直な違和感より、別の懸念がありました。昔から、進路の話をしている最中に突然何故か母親がデヴィ夫人の半生を語り始めたり、フラれてる最中に女の子がデヴィ夫人を賞賛しだしたり、どうも僕は人生の節目にデヴィ夫人が現われるジンクスというのがあって、何か起こりそうな嫌な予感がしていたのです。

「これで会うのは多分、最後だね」駅のホームでミョンちゃんは言いました。僕はたまらない気持ちになりました。うまくいきそうな気がしていたのに、突然そんなことを言われて、どうしていいかわからなくなりました。あぁ、死にた…………いや、ここで僕は読者からのアドバイスを思い出しました。思っていることと逆のことを言うべし。今こそアドバイス実行の好機じゃないか。「し……生きてるって素晴らしいなぁ。本当に毎日楽しかった。幸せで、たまらない気持ちだったよ。ありがとう」そう、頭の中と真逆の言葉を吐いた途端、彼女はブチギレました。

「私は旅行中、ニコニコ笑いながら内心毎日悩んで地獄だったよ。どうしていいかわからなくて、頭おかしくなりそうで、なのに奥山くんはなんでそんな脳天気なこと言うの? ふっざけんなよ!! お前、殺すぞっ! 死ねっ、死ねよっ!」

完全に裏目に出た!! ミョンちゃんは泣きながら、僕をグーで何度も殴りました。疲れきって、二人で電車に乗って、頭をもたせあって眠りながら、僕は変な幸福感みたいなものを感じました。

お別れのはずの熱海駅で、ミョンちゃんが「ホームまで送れよ」と僕を引っ張っていきました。「無職と結婚出来るわけないじゃん。お前みたいな、みっともない屑男のこと、今日金輪際忘れるから」列車が駅のホームに滑り込んできました。別れの予感がしていました。僕はぎゅっと目を閉じて、心の準備を始めました。ダンテもニーチェもゲーテだって、偉大な文豪は最愛の人にフラれて傑作を書いたんだ、それでOK大丈夫何の心配もないぜ問題ないぜ。そうだろ? なのになんで痛いんだ。しょうがないって頭ではわかってるのに、なんでこんなに心が痛いんだ? 車両のドアがぷしゅーっと開き、

そしてミョンちゃんは僕を引っ張って中に押し込みました。

唖然としているうちに、ドアが閉まり、電車は東京に向けて走り出しました。

奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。爪切りをサボり過ぎて、足の小指の爪がはがれてよく血を流します。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

backno.

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/