鮭の切り身がモチーフの『KIRIMIちゃん』や、卵がモチーフの『ぐでたま』といった食品人気キャラクターをはじめ、「うさみみのかわいいおんなの子」の設定にも関わらず、「おじさんにボディスポンジがわりに使用されたり」「洗濯機で洗われたり」「被虐されているように見えて、陰湿に対象にまとわりつく気質」であったりといった自由すぎるアニメの影響から、一部では「白い悪魔」とまで呼ばれている『マイメロディ』や、「おなら」にしか聞こえないラップを披露するおしりの妖精『シリラッパー』にいたるまで、サンリオキャラクターは、性別があろうがなかろうが、動物であろうがなかろうが、一貫してフリーダムです。
また、鮭の切り身がモチーフの『KIRIMIちゃん』では、りぼんをたくさんつけたかわいい男の子(男の娘)の「ブリくん」や、きりみちゃんに恋する豚肉の「ロースちゃん」が登場します。ロースちゃんは、水産物世界における畜産物であり同性愛者(的である)という二重のマイノリティ性を表象しながら“みんなと少し違うことに気付き悩んだこともあったが、まわりの皆は気にしていないことに気付き、今は楽しく過ごしている”というキャラクター設定になっています。のみならず、メインキャラクターである「きりみちゃん」の声に男性声優を起用するなど、確信的に多様性の尊重と「性差」「人種」「セクシャルマイノリティ」への差別の禁止を呼びかけているのではないでしょうか。
サンリオキャラクターのフリーダムには、荒唐無稽でありながらも、あらゆる差別を許さないという強い信念があります。
こうしたキャラクターと世界観が幼児を中心に受け入れられ、人気が出ることは純粋に喜ばしいことです。
ですが、サンリオキャラクターのあらゆる差別を許さないという強い信念は、「人間/動物」「有機物/無機物」といった枠組みを逸脱または横断しているからこそ、広く受け入れられている。
つまり、
- キャラクターを“人間”として描かないからこそ到達できる。
- 性的発達の途中の未分化な欲動であるから受け入れられている。
- “人間”の発達過程における教育によって、多様性の排除が求められることもあるのではないか。
という意地悪な見方をすることもできます。
こうしたサンリオキャラクターたちの、子供だけでなく大人も魅了する「カワイイ」の背景には、“人間であること”への懐疑と、“非人間的”になることで生まれる多様で寛容な自由への憧れと欲動もあるのではないでしょうか。
■ 柴田英里(しばた・えり)/ 現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。Twitterアカウント@erishibata
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