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実録! 恋愛残酷物語「愛してるって言ったのに…」

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皆さんは正しいブラジャーの洗濯の仕方をご存知ですか? 僕は知りませんでした。当たり前ですけど。まずパットを外します。で、ぬるま湯に洗剤を溶かして、優しく手洗い。洗濯ネットに入れて軽く脱水をかけ、アンダーの部分で吊ると伸びません……といったことをグーグルに教えてもらい、ベランダに干しながらふと思いました。

いやいや、僕は何をしているんだろう?

そう、前回の伊豆旅行のあと、僕は元カノのミョンちゃんの部屋に転がり込んでしまいました。熱海駅でミョンちゃんを見送ろうとしたら、電車のドアが閉まる直前に車内に押し込まれた僕。次の駅まで送ってよ、東京駅まで送ってよ、やっぱり最寄り駅まで送ってよ、家の近くまで送ってよ、とズルズル引っ張られていくうちに、いつの間にか部屋まで来てしまったのです。彼女が朝起きて、会社に出かけると、後はずっと暇です。そこで洗濯なんかしたり、掃除機をかけたりと、ちょっとした主夫みたいな生活を送っていたわけです。中々楽しいんですよね。

いや、実は昔、他の女の人と似たようなことをやってみたことがあったのですが、これが全く楽しくなかった。地獄だった。しかし、今はとても楽しい。これはやはり……愛のなせるわざでしょうか? 愛って大事ですね♪

洗濯掃除が終われば、もう何もやることがありません。なんせ無職ですからね。本を読んだり、ワイドショーなんかを見たりしながら、ソファーに寝転がってごろごろ怠惰に暮らしながら、気がつくと考えているんです。僕はこんなことしている場合なんだろうか、と。

働きもせず原稿を書くわけでもなく、たしかに幸せで楽しい毎日ではありますが、こんなんで良いのか。いやいや、そもそも、今回の原稿の趣旨というか方向性みたいなものを、僕はすっかり忘却しかけていました。今回は、そう、僕の手を何度も何度も噛み付く飼い犬のエヴァンゲリオンを愛したいんだけど、でもそもそも愛って何だろう? という相談に頂いたコメントを読んでいく回なのです。というわけで早速、皆さんから頂いたアドバイスを読みつつ、感じたことも少し書いていきたいと思います

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他人のためを思って何かをする、ということ自体は僕はあまり嫌いじゃないような気もします。ここ数日家事をしたりするのは楽しかったけど、でも、これだけで愛していると言えるかというと、中々微妙なところです。いや、むしろなんかクズい。そもそもそれが求められていることなのかというと、なんとなくズレている感じがします。

そこで頂いていた、長文のコメントを5回くらい読み返しながら、あれこれ考えてるうちに、ふとその意図がなんとなく僕なりに読み込めてきました。要するに、自分が傷つくのが嫌だから人を傷つけるのも嫌で、だから自分の気持ちにも正直になれず相手の気持ちに正直に応えることも出来ない。ということなのかもしれないですね。そうじゃなくて、もっと素直に、自分の一つ一つの気持ちに、正直な気持ちから目を逸らさずに向き合っていくことが大事なのかもしれません。

うーん、なるほど……。たしかに、多分これは僕だけに限った話でもないと思うのですが、自分の愛情に正直に素直に向き合うことって中々難しい気がします。だって、心を開いたり、傷つけたり傷つけられたりするのは、とてもエネルギーのいることで、それを無意識に避けようとしてしまうものです。だから、どこかで聞いてきたような誰かが言っていた理屈を借りて、自分の気持ちから目を逸らして適当に折り合いをつけようとしてしまう。じゃあ一体、僕の素直な気持ちってなんだろう……。

愛すべき日々

ミョンちゃんにLINEで、今日の晩ご飯は何が良いかなと聞くと、うどん、という答えが返ってきました。スーパーに買い出しに行って、食材をプラスチックのカゴに放り込みながら、ふっと僕は、ああ、幸せだな、なんて幸せなんだろう、と思いました。でも一方で、どこか何か、幸せでいることに対する、後ろめたい気持ちがぽつぽつと芽生えだしたのです。僕はこんなことでいいんだろうか。僕は幸せになっていいんだろうか。僕には幸せになる資格なんてないんじゃないだろうか。無職だし。それに、幸せになることで、僕は何か切実な文章が書けなくなるんじゃないだろうか、幸せって、怖い。

そもそも僕とミョンちゃんは、この9年の間にすれ違ってばかりで、こんなに長期間ずーっと一緒に顔をつきあわせているようなことが、今まで一度も全くありませんでした。学生時代も会社員時代も、2日以上一緒にいたことはなかったような気がします。会うのも1カ月に1回くらい、会話も殆どなし、そういうかなり淡泊な恋愛でした。それがいきなり毎日こんなに一緒にいるんだから、中々、心も体も慣れないわけです。

用意した晩飯を食べ終えて、二人で映画を見ているときにミョンちゃんがぽつりと言いました。

「結局あなたはさ、書くことで頭がいっぱいで、今すぐ結婚も出来ないし、そんな自分の人生の計画に、私の方が合わせろって。暗に言外に言ってるのよね? でも、そんなの知ったこっちゃないし。成功して立派になるまで待ってくれって、じゃあ一体何年待てばいいのさ。何日何ヶ月何年何世紀待てばいいのさ。おばあちゃんになるまで待てばいいの? そんなの待てるわけないじゃん。あなたの夢が叶うまでコールドスリープでもしたらいいの? 無理だよ。私、バカな女になりたくないの」

ブルブルと震えながら台所で食器の後片付けをしていたら、いきなりミョンちゃんが後ろから飛びついてきました。「怒った? でも、奥山くんなんか、大っ嫌いだよ」僕は何をどうすればいいんだろうか、といよいよわからなくなってしまいました。多分僕は、そう遠くない将来に、ミョンちゃんにフラれるんだと思います。この連載が終わると、完全無欠の無職に逆戻り、あっという間に時間は過ぎていくんでしょう。そのうち両親が死んで、気づいたら僕は50歳を過ぎ、ミョンちゃんはとっくに他の男と結婚していて、子供も中学生くらいだったりするんでしょう。その彼女の幸せな家庭を見て、僕は一体どんな気持ちになるんでしょうか。ああ、幸せになってくれて良かったなぁ、という風に思うんでしょうか。それとも、たまらなく悔しい気持ちになるんでしょうか。こんな風に二人で過ごせる時間も今だけ、きっと花火みたいに一瞬で消えていくような気がします。

ミョンちゃん「でも奥山くんは一体どういうつもりなの? 私への気持ちとか、何かを書いてることとか、なんで全部洗いざらい話そうと思ったのさ。今まで黙ってたのに。急に話そうと思ったきっかけは、何? それがわからない。ヒモになりたいの? 一体どうして。あなたがそれを全部言いさえしなければ、私はもっとちゃんと生きれたのに。こんな、辛い、酷い、地獄みたいな思い、しなくて済んだのに。どうして? ねぇ、どういうつもりなのさ。これ、どうするのさ」
僕「なんとかするよ」

と言いながら、嗚呼、僕ってクズだな、と思いました。一体どうすればいいんだろう。考えても何もわかりません。どうにもしようもないということだけはわかる。「奥山くんのこと、愛してるよ。だから、大嫌い」最後にそう言って、彼女は部屋の電気を消しました。

突然の終わり

翌朝、ものが投げられる音で目が覚めました。ビックリして慌てて起き上がると、能面みたいな顔をしたミョンちゃんが、僕の着替えや、携帯電話の充電器なんかを、次々にマンションのベランダから外に向かって投げているのが見えました。狂気です。

「あなたなんか、いらない。今すぐ捨てることにしたから。今すぐここから出て行って。あなたなんかと出会ったのが間違いだった。好きになった私がバカだった」

ミョンちゃんっていうのは、全く脈絡なくキレだして、突然関係を遮断するというようなところがあるのです。少し驚きましたが、しかし過去にも似たようなことが何度かあったので、ある程度は感覚は慣れていました。まぁ問題は、このノリで東京から京都まで帰るというのはすごくダルいというだけのことです。結局、着の身着のまま部屋着のままでミョンちゃんの部屋を出ることになった僕は、地面に散らばった私物を拾い集めてリュックサックに詰め、東京をあとにすることにしました。

しばらく道を歩いていると、ミョンちゃんが電話をかけてきて、泣きそうな声で謝ってくるのが聞こえました。でも経験上、なんとなくここで一旦引き下がって帰るのが正しいような気がしたので、僕はまた行きと同様に青春18切符で十時間以上電車に揺られて、東京から京都まで帰ることにしました。そのとき、朝の光が東京の住宅街に降り注いでいました。多少ムカつく気持ちを抑えながら、ミョンちゃんに「大丈夫だよ」と返し、それからまたしばらく無言で町を歩き続けました。駅の改札付近、ひぐらしとハモりながら泣く子供の声を背に、「愛してるよ」と僕は言いました。

こうやって内面を吐露した文章を見せること自体、ミョンちゃんに対する一つの仕掛けなのです、というコメントが思い出されました。いつも、でもでもだってと言うばかりで何も解決しないのも、全くその通りです。

でも、だって、愛してるよ、と僕は言いました。

奥山村人(おくやま・むらひと)
1987年生まれ。京都在住。子供のころ、アホがうつるからあの子と遊んじゃいけません、と友だちのおじいちゃんに言われたことがあります。Twitter:@dame_murahito BLOG:http://d.hatena.ne.jp/murahito/

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/