独身で特定の恋人(彼氏)もいない女性は、「ちょっとおかしい」から嘲笑したり発破をかけてもいい、ような空気がある。
恋愛って人間が社会を営む上で必ずしも常に最優先事項ではないはずだし、恋愛に没頭しているとそれはそれで「ちゃんと仕事しろ」な空気も同時に漂っているのに、どういうわけだろう。
たとえば「今は恋愛に時間を割けない」と正直に言ったとして、「いい人紹介するよ」「出会いがないだけじゃないの?」「そんな格好してるからモテないんだよ」と的外れな返答をくらったりもする。
このあたりについては、以前、林永子さんも連載で書いていた(永子さんの場合は、恋愛ではなく「結婚」に関してだったが)。
「彼氏がいたら追っかけなんてやらないわよ」
ファッションプロデューサーで、アパレルやコスメに特化したPR会社の経営者で、“オネエタレント”という枠でテレビ出演もする植松晃士が、8月4日放送の『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)で、一般女性にすごい暴言を連発していた。
いわゆる“オネエタレント”枠の人って、そうでない枠の人よりも、毒舌であることを求められているように思う。だから植松晃士もそういう役割をずっとこなしてきていて、AKB48の女の子たちの私服チェックをして「おブス~!」とブス度を判定したり、商業施設に遊びに来ている一般の買い物客にも「おブス~!」とファッションコーディネイト指南をしたりする。
それにしても、植松晃士しかりIKKOさんしかり、本職をやりつつテレビにも“オネエタレント”枠で出演する方々は、やたら女に「恋しろ、キレイになれ、それがイイ女だぞ」と喧しいのだけれど、あれはなんなんだろう。「私は肉体的には男だけど、努力でこんなにキレイに保って、恋愛も充実してる。アンタたちは女ってことに甘えすぎよ!!」とかね。いやいや、ほっとけよとしか思えないのだが、そうしたオネエタレントの言説についてはまたの機会に取り上げたい。
で、『ヒルナンデス!』では、定番コーナーのひとつである「激安コーデバトル」のVTRで、東京・台場の「ダイバーシティ東京プラザ」に来ていた買い物客のファッションチェックをした。
番組スタッフに声をかけられた女性2人組は、「インディーズバンドのライブで知り合った」という。男性アナウンサーから「今、幸せですか?」と訊ねられ、女性のひとりが「幸せだがけど彼氏はいない」と答え、重ねて「今は彼よりもアーティストなんですか?」と質問される流れに。すると植松晃士は、「アーティストの追っかけのせいにしているだけで、彼氏がいたらアーティストの追っかけはほどほどなのよ」「ぽっかりと穴が空いているところをアーティストで埋めてるだけで。出てますよ、寂しい感じが」と言い放ったのだった。
その後、恒例のファッションチェンジをして、女性のひとりが植松晃士の選んだ洋服に着替え、「これなら爽やかな印象で好感度が上がる」と太鼓判を押された。植松晃士は「せっかくだから、バンドの追っかけチームの中からいい人を見つけてみるのはどうですか?」と、好きなインディーズバンドのファンの中で彼氏候補を探すことも提案。女性たちが「(男性ファンは)少ないかもしれない」と返すも、「少なかったら選ぶの簡単でいいじゃない」と、とにかく積極的に恋愛することを勧めていた。
この一連の流れを、うんざりすることなく笑って流せる視聴者がきっと多数派なのだろう。
だけど、何か特定のものを愛好する女性たちが、「彼氏がいないから熱中してるんだろう」と決め付けられがちな状況は、どうにかならないものだろうか。
それってつまり、「彼氏がいれば他のものに興味が集中せず、恋愛一直線なのが女だろう」って決め付けでもあるし、「彼氏がいれば趣味なんか二の次にして彼氏を一番に考えるべきだろう」って押し付けでもある。
シングル女性と恋愛について同じようなことは、7月にもあった。こっちはフジテレビだ。
7月22日放送の『みんなのニュース』で特集された「リアル!『ひとりでいる理由』」というVTRは、インタビューを受けた当人がTwitterで不快感を表明したことで、ネット上でも批判が集まった。
番組ではサンリオピューロランドなどを訪れ、そこに単独で遊びに来ている女性を取材し、「彼氏いらない女子」として紹介した。女性たちにカメラとマイクを向けたその場では、取材班は「一人でも楽しい女子の特集」と説明していたそうである。しかし、編集後の放送では、「彼氏いらない女子が急増中!」と煽っている。
「一人でも楽しい」ことと、「彼氏いらない」こととは、別ではないだろうか……? そこを切り離して考えられないのは、どうしてなのだろう。
18歳までは、男女交際は“不純異性交遊”なんて呼び方もされ、恋愛に現を抜かさず、勉学やスポーツに励む健全な青少年であれよ、と推奨されているのに、18歳を超えたら「恋愛しなきゃ人生もったいないよ!」と手のひらを返されるのが不思議でならない。
恋愛しないとセックスしない→セックスしないと子供が出来ない→少子高齢化が進行中の日本において若者が恋愛しないのは大変危機的状況だ! という思考回路を持つ人が本当にいるってことなんだろうか。
誰かと愛し合うことができたら、それもきっと素晴らしい。
私はドラマ『ストロベリー・オンザショートケーキ』の最終話で、窪塚洋介が卒業式の壇上でぶった、愛についての演説が大好物だ(窪塚がやっているから、だけれど)。だけど、いつも誰かと愛し合ってなきゃいけないわけではない。
なんでこんな自明のことを今さら言っているんだろうと変な気持ちになってきた。
信じられないかもしれないが、女性はいつも彼氏を欲しがっているわけではない。
しかし当の女性側も、「彼氏いなきゃヤバい」と思い込むループにハマッていたりする。「彼氏いなきゃヤバい」の思い込みが強すぎて、絶対に別れた方がラクになる彼氏(付き合っていると数多のデメリットが襲いかかってくる)にもしがみついたり、さらには「女は若い方がいい」の呪縛に女自身取り込まれて「この年齢で彼氏と別れたら次はない!」と、何とか結婚に持ち込もうとしちゃったりする。冷静に考えたら、その縁を切らずに生かしておくことのほうがよっぽどヤバそうな状況でもだ。
「彼氏いなきゃヤバい」とか、「彼氏が欲しいハズだ」とか、本当に自分自身がそう望んでいるのか、外野の声に惑わされず、落ち着いて呼吸してみてほしい。そして外野は沈黙するのが正解だ。