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文科省の高校生向け保健教育副教材「妊娠のしやすさ」の何が問題なのか

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文部科学省より

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 文部科学省が作成した「健康な生活を送るために」という高校生向け保健教育の副教材が話題になっています。この副教材は、8月21日の閣議後会見で有村治子女性活躍担当相が発表したもので、8月下旬から全国の公・市立高校に配布されます。副教材を使用するかどうかの判断は各学校に任されているようです。

 この副教材には「心の健康」「交通安全」「喫煙の害」「健康情報」「HIV、エイズ」など21のテーマが盛り込まれていますが、「妊娠出産」の冒頭にある「妊娠のしやすさと年齢」という項目がネット上で議論の対象となっています。

「医学的に、女性にとって妊娠に適した時期は20代であり、30代から徐々に妊娠する力が下がり始め、一般に、40歳を過ぎると妊娠は難しくなります。一方、男性も、年齢が高くなると妊娠に関わる精子の数や連動性が下がり始めます」(「健康な生活をおくるために」より)

 こうした記述とともに、O’Connorの論文を引き「女性の妊娠のしやすさと年齢による変化」を示すグラフが記載されています。特にこのグラフに対して批判が集まっています(詳細は後述)。

「女性のみ」が対象ではない

 今回の副教材を見て、2013年5月にバッシングされた「女性手帳」を思い浮かべました。女性手帳は少子化や晩産化を問題視した政府が、女性を対象に、10代から身体のメカニズムを知り、ライフプランを立てることを周知する目的で作られたものです。ここでもやはり「医学的には30代前半までの妊娠・出産が望ましい」とされていました。

 当時の批判の内容は大まかに「女性のみに配る=出産を女性の責任に押し付けている」「なぜ女性が晩産化にいたっているのかを考えていない」などであったと記憶しています。政府はその後、あまりに批判が殺到したためか、女性手帳の配布を見送っています。

 今回の「健康な生活を送るために」は「全国の公・私立高校に配布される」とありますから、女子高校生のみに配られるわけではないようです。内容についても、女性を対象とする記述に比重がおかれている印象を受けるものの、不妊の原因が女性側だけの問題ではなく、「男性のみ」が原因である場合や「男女とも」に原因がある場合も書き示しています。これまで「女性に不妊の原因があり、治療を行うのも女性側」と思われがちだったことを考えると進展と言えるかもしれません。

 先ほど引用したように「一方、男性も、年齢が高くなると妊娠に関わる精子の数や連動性が下がり始めます」という文言が入っていますし、別の箇所では「男女ともに産み育てやすい社会の実現に向け、徐々に法律や制度が整備されている」として「育児休業制度」「や「時間外労働の制限」など育児のための社会的制度の必要性を訴えた上で、赤字で「妊娠・出産・育児は、男女がともに考える問題です」と書かれている。今回の「健康な生活を送るために」については、「女性“のみ”に、出産の責任を押し付けている」とはいえないかもしれません。

元の論文とグラフの形が違う!

 ではなぜこの副教材が批判されているのか。その理由は資料に示されているグラフにあります。というのも副教材で使われているグラフは、元の論文にあるグラフを改変しているのではないかとされているのです。

 詳細は「文科省副教材『22歳をピークに女性の妊娠のしやすさが低下』のグラフは正しいか?」を参照いただきたいのですが、副教材にあるグラフと元論文で描かれている曲線の形が明らかに異なっています。

 副教材では、22歳をピークに、25歳までなだらかに減少し、25歳から30歳までにさらに急減するような印象を受ける曲線となっています。一方、元の論文では、20歳から25歳まではほぼ同程度で、25歳から30歳についても、20~25歳期に比べればやや減少するものの、それほど急減しているわけではありません。

 要するに、20~25歳と30歳前後の妊娠のしやすさが、それほど極端な差がないにもかかわらず、副教材では目に見える差があるようなグラフを使用しているのです。この改変は高校生の誤解を招くものでしょう。

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