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絶対に笑ってはいけない座禅で尻まみれになった無職

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みなさんはクッキークリッカーというゲームをご存じでしょうか。画面上のクッキーがもの凄い勢いでひたすら増えていくのをただ眺めているだけ。放置しているだけで何十億個というクッキーが次々に焼きあがっていく。そんな究極的に不毛なゲームです。ゲーム性も試行錯誤もない、クソゲーの中のクソゲー。キングオブクソゲーです。ところがこのクソゲー、ナゾの中毒性があり全世界で大ヒット。日本でも一時期すごく流行っていたので、本家を遊んだことがなくても、パクリの派生系ゲームを遊んだことがある人はけっこういるんじゃないでしょうか。

時間を豪快にドブに投げ捨てるようなこのゲームを、以前のミョンちゃんとの旅行中に黙々とプレイしていたら、ボコスカに殴られてしまいました。

「殴られると嬉しそうな顔するよね? それでわざとそういうことしてるの? ドMなのかな……」

いやいや、好きな女の子に殴られて喜んでる場合じゃありません。僕はもっと、強くたくましい男になって、彼女から尊敬の念を抱かれるような人間になりたいのです! 何故? って、なんとなく……。

自分の殻を破るためには

さて、相談の内容が具体的だったからか、はたまた僕の真剣な想いが通じたからか定かではないですが、「自分の殻を破るにはどうすればいいですか?」という相談にたくさんのアイデアが集まりました。

他にも、実際に自己啓発セミナーや一人旅に行ってみたものの、何も変わらなかったよ、という実体験を送って下さった方まで。担当編集者と2人で、頂いたアイデアの数々を前にして、さて何をやろうか? と某日、相談をしておりました。

・バンジージャンプ
・演劇系のワークショップ
・頭禿げるまで滝に打たれて、脳みそ洗って来い!
・座禅
・海外青年協力隊
・無職ブロガーの phaさんのインタビューとって来て
・インドあたりに一人旅
・宗教に入信
・精神科
・実家でろ
・家庭を持ち、子供をつくり、がっっっつり子育てをしてください
・ウダウダ考えずにまず動く!
・お遍路
・FC2ライブで全裸
・心理テストを受ける

僕「いやぁ、壮観だなぁ……。これ、いつも思うんだけどさ、実行するアドバイスって一つに絞らなきゃダメなの? なんかもったいない気がしてさぁ。色々やってもいいんじゃないかなぁ。ワークショップとか自己啓発セミナーとか楽しそうじゃん。phaさんとの対談とか本当に実現したらいいなぁ。僕、ファンなんですよ」

担「奥山さん、なんか勘違いしてませんか? 奥山さんが楽しむためにこの連載をやってるんじゃないんですよ。年齢も性格もなにもかもが、色々とギリギリの人間がもがき苦しみながらどうやってこの世知辛い現実と関わっていくのか、そういう姿を読者に見てもらいたいわけじゃないですか。いや、それだけじゃない。ひいてはそれがあなたのためなんです。この連載が終わるまでに何か見つけてほしい。それが単に働くってことじゃなくてもいいから。真剣に変わってほしい。連載はいつまでも続くわけじゃないんですよ? ただの無職に逆戻りしてほしくないんですよ、僕は」

なんてムダに熱い担当編集者の話をいつものように聞き流しながら、クッキークリッカーに興じていたら、「じゃあ、滝行!」と彼が決定事項のように叫びました。「一番きつそうだから」と。

そのことをミョンちゃんに話すと「私も賛成」。

ミョンちゃん「でも、いい滝あんの?」

言われてハッとしました。そう、僕たちはこのときまだ滝を舐めていたのです。ネットで検索してもそうそう手頃な滝は見つかりませんでした。京都の寺だと、だいたい月に一回やるかやらないか。中々、連載スケジュールに合致する手頃な滝は見あたりません。滝業界に詳しくなればなるほど、問題は簡単ではないことがわかってきました。これでは困りました。いやあ、困ったなあ。これじゃあ、滝行が出来ないじゃないか。本当に仕方ないなぁ。しょうがないから、他のもっとラクで楽しそうなやつに……。

という僕の思惑を打ち消すように「じゃ、延期で。でも近日中に必ずやりましょうね。僕、休みとって車出すんで」と担当編集者。そこそんなに本気になるところかなあ! という気がしたのですが、彼はどうもやけにノリ気です。僕はどうなってしまうんでしょうか……滝行、すべって頭打って死んじゃうんじゃないかなぁ……。

で、それより問題は今回の原稿の方です。なにせ締め切りは迫ってきているんです。

で、「とりあえず座禅でも行っとけば? つなぎで。京都だし寺とか腐るほどあるんでしょ。知らないけど」と担当編集者に言われ、そんな軽いノリでとりあえず座禅から始めることになったのでした。

座禅体験

こんな調子で良いものなんでしょうか……? とにもかくにも、寺を探し、予約を入れます。やけにビジネスライクな調子の女性が電話口に出て「領収書ですか? 出ますよ」と教えてくれました。

さて当日、てくてく歩いて寺に向かったのですが、集合場所につくとすでに何人かの人がいました。定年過ぎらしく見える初老の男性から、大学生くらいの女性まで。老若男女がつどっていました。しばらくして本堂に通され、いよいよ座禅体験がスタートしました。

力を抜いてまずストレッチをしましょう、というお坊さんのレクチャーに従い、まずは足を伸ばしたり脱力することから始めます。なんかヨガの体操教室みたいなノリです。

上半身の力を抜いて下半身に意識を集めるようにすること。足の組み方、手の組み方。目を閉じて自分の内面を見つめるとか、無になろうとするとか、そういうイメージではなく、ただ座っているということだけをイメージすること。といったレクチャーを受けて、いよいよ座禅のスタートです。この時点で、インナーワールドを見つめて何やら意識改革でもしてやろうという僕の算段は崩壊しました。拍子木が打たれて座禅が始まりました。

半眼を開けるようにして……と、ここでいきなり困ったことになりました。ちょうど視界の全部が、前に座っていた女の人のお尻に埋め尽くされてしまったのです。ザ・煩悩。これでは全く座禅ではありません。そこで、さっきのレクチャーの際にお坊さんが「どうしても集中出来ないときは、ただ一心に数を数えるようにしてください。これを数息観といいます」と教えてくれたことを思い出しました。数息観、数息観……。しかしこれがその日最大の失敗でした。数を数えれば数えるほど、何故か目の前のお尻がどんどん増えていく。しかも、1つ2つといった生やさしい数の増え方ではありません。前述のクッキークリッカーのように、もの凄い勢いでそれが増殖していくのです。1830593579、1983456349、2498478020……僕の脳内には今もの凄い数の煩悩、つまりお尻が存在していました。それは等比級数的に膨れ上がっていきます。

このままじゃいけない。そう思っていると、今度はお坊さんが何やら人をたたくための棒(警策というらしい)を持ってのしのしとやってきました。「どうしても集中出来ないとき、叩いてほしい人はそっと手を合わせて合図してください」と事前に説明があったものです。ちらりと横目で見ると、男子高校生が興味本位なのか早速手を合わせています。次の瞬間、バシン! ともの凄い音が室内に響きました。あかん! あれ、絶対痛いやつやん! 凄い音鳴ってるもん! と思うと、なんか急に笑いがこみ上げてきて、吹き出しそうになりました。

これ、これは「絶対に笑ってはいけない座禅」だ! 笑ってはいけないと思えば思うほどに笑いがこみ上げてくるぞ……! まずい……。震えながら必死で笑いをかみ殺していると、お坊さんが「無職、アウト~」とでも言わんばかりに僕の方へすたすたと近づいてきました。

バシン! あひぃん! バシンッ! いひぃ! バッシン! やひん! バシン!! いやぁ!

四回も! 四回も叩かれた! 僕は、僕はやっぱりマゾじゃないぞ! 叩かれても痛いだけで全然気持ちよくない!!

自分の意識が自分でどうにかなるなんて思わない

座禅のあとは、お坊さんからの説法がありました。

「自分は何者だとか、自分はダメだとか、他人からどう思われているだとか。そういう自意識を座禅の時は捨ててください。自分の意識が自分でどうにかなるなんて思わないことですよ」

なんだかまるで、それは僕のために投げかけられた言葉に感じられるくらい、うってつけの言葉でした。

そうだ、たしかに僕は、頭で考えて何か自己改革のようなものをしようと、そればかりを考えていた。でも、コメント欄にもあったように、行動・経験を積み重ねることでしか得られないことがたくさんある。狭苦しい部屋の中で自意識ばかりこじらせていても、そのときどきでは瞬間的にポジティブな気分になったところで、結局はすぐに元の木阿弥。血肉にならない。振り返ればこれまでの連載でも、両親と食事に行ったりKENJIさんと対談したり元カノのミョンちゃんと再会したり、外に出て何かすることで少しは変わってきている実感もある。経験を積むことで人は変われる。この記事の最初に検討したアドバイスにも「ウダウダ考えずにまず動く!」というのがありました。体が先に動いた方が、動かすことで、つまりとりあえず何かやってみることで、意識があとから変わる、そういうことがあるんじゃないか?

……これだ!

とにかく何かやってみることで、その経験と時間の中に身を置いてみることで、人は変われるんじゃないか? 決めた。これからも、何か、何かやってやるぞ……!

その夜、僕は興奮して、中々眠れませんでした。

お坊さん「夜眠れないときにも、今日行った座禅のテクニックを応用してみて下さいね。とくに数息観、数を数えるというのはすごく効果がありますよ」

ものは試しです、早速実行してみることにしました。

……それ以来、どうもお尻が異常に増えていくイメージにうなされて、眠れない夜が続いています。

奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/