鶉 みんな「理想病」に侵されていると思います。「ありのままの自分を受け入れてもらうことが一番大事」とか、「誠実に接することが一番大事」とか思い込んだがゆえに、協調性のない人に見えるような振る舞いをしたり、コミュニケーションがうまくとれない人って少なくない。そして道行くカップルを見て「爆発しろ!」とか憎しみが込み上げるのは、恋愛に「100%幸せ」な理想を投影しているから。実際に恋愛してみるとわかるはずですけど、100%幸せなんてない。恋愛してる時だからこそ、面倒なことたくさんあるし、不安とか悲しいこともある。彼らからすると、街中のそれこそ渋谷を歩いてるカップルとかは何か皆幸せそうに見えるんですよね(笑)。そのカップルは「ちょっとカフェ入らない?」「えー、もうちょっと歩けるだろ」「足が痛くて」「だからそんな靴履かなきゃいいのに」とかって喧嘩してる最中かもしれないでしょう? 「爆発しろ!」という人はそれが想像がつかないんですよ。
この世界で、幸せな恋愛からの結婚や温かい家族が「スタンダードな理想像」みたいに布教されているから、いっそう「理想病」が蔓延して、そこからハミ出た人が卑屈になるんじゃないかと思います。恋愛も家族も人間関係の一部だし、幸せへのパスポートじゃない。恋愛したら自動的に幸せになれるわけないじゃないですか。
――おっしゃる通りだと思います。セックスも、単純にエロいだけのものじゃないですしね。
鶉 そうですね。メディアから得られる恋愛やエッチな情報っていうのが、まぁ~良さそうに見えるんですよね。超美味しそうじゃないですか?
――美味しそうに見せてますよねえ。家庭も。何であんなに美味しそうに見せる必要があるのかな。
鶉 幸せ100%の温かい家庭なんてないでしょ? って、それぞれが自分の家庭のお父さんやお母さんの様子がどんなふうだったか思い出してみてほしいですよ。結婚したら100%幸せかっていうとそうじゃないんだから。毎日エッチするわけでもないし。普通に考えてみてほしい。
――理想病は、鶉さんがクラッシュしてきたようなオタク男子だけじゃなくて本当に広い裾野で全国的に蔓延してるから。ネットニュースのモテ記事なんかでも、よく「モテる女の子のやってること5箇条」とか「男子が好きな女子のパーツ9個」とか、そういうのあるじゃないですか。ああいうのは女性向けに書かれているとしても、女性にとっては害悪でしかないと思うんです。いかにして男たちの総意として「理想」とされている女性像に自分を当てはめるか、なんて、腐心するのは時間の無駄。
鶉 普通に文明が発達して、国内でも海外でも、短時間でもいろんなところを人が行き来できるようになったじゃないですか、通信手段もすごく増えたし。そうすると、昔だったら「近所の誰かとか、知り合いの探してくれた誰か」の数名の中から恋愛や結婚の対象を決めていたところを、めちゃくちゃ選択肢が広がっちゃって「もっと理想的な人がどこかにいるかもしれない、まだ出会ってないだけで」ってハードル上げがちになっちゃってる部分もあると思います。選び放題になったのに、選べない。