――「理想」は、人を縛り付けているように思います。もっと自由でいいのに。ところで、鶉さんに「クラッシャられ」た男性で、その後、普通に恋愛できるようになった方はいるのでしょうか。
鶉 私に「クラッシャられ」た男性は知らないんですけど、クラッシャられ体質の男友達で、女の子に対して心を閉ざし「俺はもういい」「女なんていらない、俺は孤独に死んでいくんだ」と宣言していた人が、最近初めて彼女ができて楽しそうなんですよ。
――なんと。
鶉 私が出会った当初はほんとそんな感じのメンタリティで、「俺は35歳で死ぬ」と言ってた(笑)。「このまま俺は生きても無意味だから早く死んだ方がいい」みたいな。で、彼は「どうせ死ぬんだったらやりたいことやるか」と吹っ切って、いろんな創作活動をしていたんですよ。そしたら彼の作品を、「すごい好きです!」って言ってくれる女の子が現れた。その子は彼の作品のどういうところが好きか熱く語って。彼はすごく充実していったんですね。
彼女は彼の作品の一番の読者だから、新作の内容について「これはこっちの方がいいんじゃない?」「いや、こっちの方がいい」「こっちだと前のにちょっと似ちゃうからこっちの方がいいんじゃない?」と2人で議論を交わすようになり。やがてお互い、自然と付き合うようになったんです。彼はもう見違えるように楽しそうです、今。仕事も一生懸命だし。
でもこの彼女だって別に、「こぢんまりした可愛らしい容姿で華奢だけど、芯は一本通っていて強い」なんていう、ゲームやアニメキャラクターみたいな子ではないんですよ。本当に普通に、同人が好きなオタクの女の子。前にお付き合いしていた男性から変な理由でフラれてすごい傷ついた経験があって、ちょっと恋愛に臆病にもなっていた子です。だから死にたがりの男性を、この女性が救い上げたっていうストーリーでもないんです。
――こういうの、女神による救済ストーリーみたいに読まれがちですよね。
鶉 でも違うんですよ。彼らが恋愛に発展したのは、お互いばっかりを見つめすぎなかったからじゃないかと。一緒に同じ「創作」というところをすぐ近くで見ていたのが、良かったのでは、と思うんです。だって、自分のことしか考えてない男ってキモくないですか?「頭の中8割君のことだよ」って言われると、すごい嫌じゃないですか、え、何キモッってなるじゃないですか。
――すごくなります。
鶉 怖いですよね。一途なのと、「頭の中8割君のことだよ」は違う。そういう、常にこっちを見過ぎている人は偏執的だしやっぱり魅力を感じないですよね。男女どっちでもそうだと思います。女の子に「私、あなたのこと毎晩考えてるから」と宣言されたり、夜中に家に来られて「あなたのこと考えて眠れないの」って言われたりしたら、その女の子をメンヘラ認定するでしょう。相手のことで頭がいっぱいの状況は、その人の魅力を失わせる。なので、お互いを見るんじゃなくて、相手の見てる方向を見るというか。それを媒介としてお互いの内面を知りますよね、「あ、この人はこういうタイプの小説が好きなんだ」「こういう筆致が好きなんだ」とか。その過程で、たとえば「実は今日ちょっと作業をするから、ちょっと手伝ってくれない?」というやりとりが自然に出来たり、イベントに行って一緒に本を売るとかすると、そりゃ仲良くなりますよね。お互いに相手に深くコミット出来てる自覚を持てて、それが本人にとって自信になる、相乗効果です。
――いい恋愛だ。でも何度も言うようですけど、それが「最上級の理想」じゃないですからね。人間関係のイチ形態なだけで。
鶉 そう。くれぐれも、理想病にとらわれないでほしいです。そして自己肯定感を持ちましょう!
(撮影・取材・構成=下戸山うさこ)
■鶉まどか/ 1990年、東京都生まれの元サークルクラッシャー。現在は都内で働くOL。ブログ『あの子のことも嫌いです』