連載

ついに働き出した無職が、イケてる仕事を切望中

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さて、座禅から帰ってきてからというもの、何かをやってやろうという気持ちだけはあるのに、具体的に何から手をつけていいのやらわからず、僕は悶々としていました。気持ちだけが先行して、いっこうに具体的な行動にたどり着かないのです。そう、相変わらず僕には具体性というものがさっぱり欠けていて、部屋の中でぐじぐじと悩んでいるだけ……。

「いや、とにかく原稿書いてくださいよ! というかいい加減働いたらどうなんですか?」

人が寝ていたというのに、真っ昼間から電話をかけてきた担当編集者がなんだか困ったようにそう言いました。なんだよ、どうしたんだヘヘイBABYお前までそんなこと言うのかよ、と内心思い、陰鬱な気分になりました。

担当編集者「……別に僕自身は奥山さんが働こうが働くまいがどうでもいいんですけど。あなたの人生ですから勝手にすればいいですよ。ただほら、読者のみなさんの声を代弁してるっていうか。やっぱりこう、みんな奥山さんの働く姿が見たいんじゃないかな、って思いまして」
「みんな働け働けってうるさいんだよ! 最初からずっと働かねぇっつんてんだろ!」

怒鳴り声を張り上げたところ、木造築30数年の実家に響きわたってしまい、父親にもの凄い勢いで怒られてしまいました。「働け!」しゅん……。気をとりなおして、会話を続けます。

「いやでも実際どうなのよ? 別に、働いた経験がない訳じゃないんだよ? バイトもしたことあるし、会社員も3年半以上した。でも虚しいから全部辞めたって言って、それで無職としてこの連載を書いているのに、また適当に働いたところで別に虚しいだけじゃないか。そんな原稿、読者は本当に読みたいのか? まださ、僕に一度も労働経験がなくて、生まれて初めて勇気出して働くっていうんだったらそりゃ感動的かもしれないけどさ。でもどうなんだよ、今働いても挫折したようなもんじゃないか。諦めて働くことにしました、それも理由は、なんとなく読者の皆さんのコメントが厳しいからです。って、そんなのなんか面白いか? 面白くないね。絶対に面白くない。自分が読者だったら、そんな原稿、絶対読みたくねーよ」

これまでの連載中にずっと心の中にため込んでいた思いの丈をぶちまけて、僕はちょっとすっきりしました。そうそう、ずっとそういうことが言いたかったんだよ僕は。だってそうだろ、世の中、やる気に満ち満ちた奴ばっかりじゃないだろ。仕方なく働いてる奴も多いだろ。本当は働きたくない、気持ちはわかる、そういうお便りもたくさん届いてるじゃないか。そう、そうさ。僕が働いたらそういう人たちの気持ちはどうなるんだ。やっぱり、好き嫌いや選り好みなんかしないで、我慢して働かなきゃいけないんだ、ってそんな気持ちにさせてどうするんだ。そんなんじゃダメだよ。僕はそういう人たちのために、これからも無職でいたいんだ。僕は、僕はそいつらの分まで、働かないんだよ……!!

「寝言は寝て言え!」

担当編集者がついにブチギレました。しばらく怒りの説教が続いたので、スマホの受話口から耳を離して放置、スマホでカイジを呼んでいたら、「聞いてるんですか!」と一際大きい罵声が飛び込んできました。ごめん、何にも聞いてなかった。

担当編集者「ってか今messy編集部で、無職向けの仕事があるって話が出てるんですけどねー。働きたくないみたいですし、別の方にお願いしますね~?」

「やる! やります! やらせて下さい!!」
「え?」
「え?」

初体験・テープ起こしのバイト

で、僕はその日、徹夜でテープ起こしのバイトをすることになりました。締め切りが近いのです。自分でもなんでムダに積極性を発揮して仕事をもらったのかさっぱりわからないのですが。久しく労働らしい労働をしていなかったので不安だったものの、いざ作業を始めてみると、すぐそれに没頭することが出来ました。

というか、そもそもこれまで続けてきた言い分とかなり矛盾するのですが、実は僕、働くのがそこまでどうしても死ぬほど嫌ってわけじゃないのです。ただ、小説を書く時間がとれなくなるのが嫌なだけで。というか、働き出すとそれで頭一杯になっちゃって他のことやる気が起きなくなるんですよね。それが気持ち悪い。、久しぶりに働いて思ったのですが、働くってなんだか楽しい。自分がしっかり社会に貢献して誰かの役に立っていると思えるだけで、何か自分の心を普段覆い尽くしている正体不明の虚無感、「生きてるって虚しい病」から目を逸らすことが出来るからです。

それが別に何か本質的な解決になるとは、どうしても思えないけど。

しかし今回の仕事は、締め切りが近い上に、初めてやる種類の仕事でもあったので、そんなことに悩んでいる暇もありません。内省は一旦中断して、黙々と作業に没頭します。

これは、とある先生にインタビューした音声テープの内容を聞き取り、ひたすらテキストデータに変換していくという仕事なのです。

再生、一時停止、タイピング、巻き戻し、わからない用語はググって解決。

これを10時間近く、ほとんど休憩も挟まずにやっていると、ある種のトランス状態にハマり込んでいきます。自分がある種の仕事に最適化された自動機械のような気分になってくる。スイッチが5つくらいしかない感じ。気分もハイになってきます。久しく味わっていなかった、この、労働特有の麻薬的快楽に没入していたら、突然ミョンちゃんからLINE電話がかかってきました。たしか彼女は海外出張でヨーロッパにいるハズ。と思いつつ電話をとると、何やらハイテンションな声が耳に飛び込んできました。どうやらヨーロッパを満喫しているようです。ひとしきり彼女の話を聞いた後、「で、あんたは今何してんの?」ときかれたので、社会学の先生に男女の性差などについてインタビューしたテープの文字起こし作業をしている、と答えました。「それって難しいの?」ときかれたので、専門用語がとてもたくさん飛び交っていて、これはそう簡単に出来る仕事じゃないよ、まぁ僕にしか出来ない仕事といっても過言ではないね、とつい大ウソをついてしまいました。しまった、良く考えれば原稿が公開された時点でバレるようなことなのに……またつまらない嘘をついてしまった。

実際には、先生はとても平易な言葉で多くの人に分かり易いように努めて喋っていらしたというのに。

どうして僕っていつもこうなんだろう。と少し落ち込みましたが、電話を切り、気を取り直して作業を続けました。忙しいと落ち込んでる暇はなくなります。夜が明けて、昼過ぎ、言われていた締め切りギリギリになってやっと、とりあえずの作業が終了。ざっと内容を確認して整理し、「いつも大変お世話になっております。奥山村人でございます(ピース)」つらつらとメールを送信して、久しぶりの仕事が終わりました。

インタビューの内容自体も面白くて勉強になったし、なんだか楽しい仕事だったなぁ、と思いました。会社員時代の仕事というのは、正直愉快なだけのものばかりではありませんでした。真面目にやればやるほど、誰かの仕事が消える、派遣の人を切ることになる、みたいな種類のものも多くて、放棄することも多々ありました。でも今回のは、なんだかんだで楽しいだけの仕事でした。まぁ、すげー眠いし寝てないし吐きそうだし、10時間以上座り続けたからお尻が痛くて痛くてしょうがないんですが(地獄の奥山)。

でも、まぁおおむね、心地良い疲労というやつです。

階下に降りていき、母親が「あんた今起きたの?」「いや徹夜でゲームしてた。超ドラゴン倒した」とまたバカみたいな嘘ついて、「ああ、こんなやつは信用されなくて当たり前だなあ」と思いつつ作ってくれた飯を食べているうちに、ふと思いました。

なんか、家でPCを使ってする仕事なら、なんとか出来るような気がするぞ……。人と関わらなくていいし……そんなに負担にならないし……。いや、でもそんなに都合良く自宅でできる仕事がぽんぽんともらえる訳じゃないし……やっぱり、いくらやる気になったところでしょうがないんじゃないか……。

と、ここまで考えたところで、閃きました。そうだ!!

なんでこんなことに今まで気づかなかったんだろう。

読者から仕事を教えてもらえばいいじゃないか!! これだ!! これしかない!

というわけで今回の相談です。

今回の相談「無職の僕に仕事を紹介して下さい!」

できれば家でPCを使ってする仕事がやりたいです。テープ起こしの他に、データ入力、記事を書く仕事、なんでもやります! でも在宅じゃなくても面白そうな仕事であればなんでもやります。僕にやらせてみたい仕事を教えて下さい。ネットなどでこんな仕事の募集を見たよ、という情報だけでもありがたいです。どしどしご応募下さい! 何卒、よろしくお願いいたします。

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/