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ジェンダー系炎上ファイル(前編)人工知能からルミネまで

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柴田英里

(c)柴田英里

 近年は世間のジェンダースタディーズへの関心が少しずつ高まってきている実感があります。インターネット上では、ジェンダースタディーズにまつわる炎上が度々起こっています。

 中でも象徴的であったのが、2013年12月にアーティストのスプツニ子さんがTwitterで表紙図像の孕む差別性を指摘したことから大炎上した、人工知能学会の学会誌、2014年1月号表紙絵の女性メイドロボットでした。

 あらためて言うまでもないことですが、アカデミズムに差別があってはならないのは基本中の基本であり大前提。ゾーニングさえすれば様々な性的ファンタジーや暴力描写などのフィクションを楽しむことができる表現の自由の権利を有する漫画雑誌の表紙などで、「従順な女性ロボットファンタジー」が描かれることとは意味が違うのです。にもかかわらず「コードに繋がれ(隷属性)従順に掃除(女性の役割とされてきた無償労働)をこなす女性型ロボットをノスタルジー(肯定的懐古)たっぷりの、誰にとっても良きもの」として描いたのですからジェンダースタディーズの観点から批判が起こるのは当然でした。

 この問題は、表象文化論学会などでもパネルディスカッションが開かれるなど、アカデミズムの世界で大きく取り上げられました。人工知能学会自体も、視覚表象研究の視点からの問題の指摘を受け入れ、学会誌にて特集を組むなど、改善に意欲的でしたが、その後の表紙も女性メイドロボットの表紙と世界観を共有するものが続いたので、当然ながら毎回プチ炎上しました。それはまるで、痛みを快感に変え、一見服従しながらもそれをマゾヒスティックな倒錯によって支配と非支配の関係を転覆させてしまう攻撃的なマゾヒズムのように貪欲で、どさくさに紛れて会員数が大幅にアップするなどのちゃっかりさも兼ね備えていました。いわゆる、炎上マーケティングというやつでしょうか?

 これ以後、2014年に映画『アナと雪の女王』が大ヒットした影響もあってか、ジェンダーギャップ指数世界104位という事態を実感してか、日本中でジェンダーへの関心は高まり、ジェンダースタディーズ的な観点から見て適切か否かが主にインターネット上で活発に議論されるようになりました。

 それでもマスメディアはまだまだ鈍感です。いえ、鈍感というより、ジェンダースタディーズの盛り上がりなど、スルーしたまま現状維持したいというのが本音でしょうか。同年の夏には、甲子園出場校の女子マネージャーが特進クラスを蹴ってまで野球部員のおにぎりをにぎる話が美談として報道されたり、24時間テレビの実話ドラマが父子家庭の幼い少女が亡くなった母親と同じ味の味噌汁を朝から健気に調理する様を美談として描きました(母子家庭の母親と少年の話であったら、こうはならないでしょう)。

 女子マネージャーは特進クラスで受験勉強に明け暮れるよりも、高校球児を支えた名女子マネージャーとしてAO入試に売り込むために「おにぎり作戦」を強行したのでは? なんて邪推もあり、「彼女は強制ではなく自ら望んでそうしていたのだから、批判するのは可哀想だ」といった意見も出ました。しかし、「女性が料理をつくることが当然であり、その方がみんなうれしい」というような保守的な二元論に基づくジェンダーロールを、高校という教育機関が行うことの根底には女性差別がありますし、「母の味を受け継ぐ娘」を期待し、幼い娘の父親への献身を美談と言い切れる少女の父親の厚かましさと勘違いには、頭が痛くなりました。

 「母・娘・妻・彼女、とにかく好きな女の子が作った料理は最高だから、是非とも作って欲しいし、常にそうあるべきだと思う!」というファンタジー(ミソジニー)は、美少女ゲームやハーレムラノベの中だけにとどめておく必要があります。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」