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結婚式で友人代表スピーチを成功させる方法

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披露宴の友人代表スピーチ文例(無職の場合)

……会場中のみんなが見ています。さすがに、無職で引きこもりでニートで、この日に至るまで3年間、ほとんど誰とも会わずに薄暗い自室でパソコンの画面ばかり見つめる生活をして来た人間に、いきなりこの舞台は少しキツいような気がしました。会場じゅうの視線が、刃物みたいに突き刺さります。それでも、勇気を振り絞って、声を出しました。

「オクナくん、Mさん、ならびにご両家、ご親族のみなさま。本日はご結婚、まことにおめでとうございます」

なぁ、オクナくん。もう昔みたいに僕は、君になんでも話せるような気安い間柄じゃなくなってしまったよ。

「ただいまご紹介いただきました、奥山と申します。オクナくんの大学時代の友人です。オクナくんとは、学部も同じ文学部で、同じ映画サークルに所属していました」

本当はもう、苦しくて死にたくてしょうがないんだ。この結婚式が終わるまで自殺出来ないな、って考えて生きてきただけなんだ。

「オクナくんと僕が出会ったのは10年前、大学一年の春、入学式の日でした。すぐに仲良くなり、その日のうちにオクナくんの下宿に泊まって一緒に酒を飲みました。オクナくんにとっても僕にとっても、お互いが大学で一番最初に出来た友人だったと思います」

あの頃は、こんな風に人生失敗するなんて思ってもみなかったよ。

「オクナくんは優しい男です。例えばサークルで映画撮影中、常に周囲への気配りを欠かさず、周りをうまく活かしてた。彼がいると、場の空気がすごく良くなるので、何をするにも、みんなオクナくんに参加してもらいたがりました。彼にはそんな、誰にも真似出来ない、人に好かれる天性の才能があります。

でも、

そのことは皆さん十分ご存知だと思いますので、今日は彼の別の側面をお話しさせて頂きたいと思います。

オクナくんはかっこいい男です。勇気があり、そしてタフです。普通の人なら怖気付いてやめてしまうことでも、正々堂々、立ち向かっていく強い心の持ち主です。ズルはしない。僕は10年、彼を見ていたから、知っています。

彼の人生はいつもチャレンジの連続でした。学生時代も、どんどんやったことがないことに挑戦していました。映画サークルで俳優をした、演技なんてしたことないのに頑張ってた。自転車で京都から熊本まで帰省したり、オーストラリアへ語学留学をしたり、音楽活動をしたり。

それは、自分の殻を破りたい、という強い意志に基づいた行動だったと思います。

そんな彼の言動に、僕はいつも刺激を、影響を受け続けてきました。

僕はいつも彼に支えられてきました。もうダメだよ、と僕が言うと、そんなことないよ、とオクナくんはいつも言いました。大丈夫、君なら出来るよ、と。

共に人生を歩む伴侶として、彼ほど心強い男はいないと思います。優しく気遣い、支え、励ましてくれる。そして心から人を信用し、本気で人を愛することが出来る。口で言うのは簡単だけど、そんな奴、世の中に中々いません。そんな得難い友人が、僕にとってのオクナくんです」

本当は僕なんて、君が憧れるに値する人間じゃないんだ。人間の屑なんだ。

「オクナくん、君は僕のあこがれです。

君のように生きられたらと思う。君はいつの間にか僕を追い抜いて、結婚なんてすげー難しいことを今日成し遂げた。そして今後は、結婚生活という長い旅に挑戦し続けていくのでしょう。僕にはすぐには真似出来ない、本当に偉大なことです。僕も君に追いつけるように、必死で頑張ります」

それでも、僕を信じて期待してくれた君をガッカリさせないように頑張るよ。

「人生、これからも、明るく楽しく、力を振り絞って、頑張り抜きましょう。

二人の末長い幸せを、心から祈っています。

結婚、おめでとう」

スピーチを終えて、まばらな拍手、自分の席に戻ると、大学時代の友人Kが、「別に誰も聞いてねえよ」と言いました。たしかによく見ると、乾杯直後から場の空気は一気に騒がしくなり、スピーチなんて誰も聞いてません。なんだよ、と思いつつ、一仕事終えて気も楽になったので酒をあおります。「シャンパン頼みまくろうぜ」とKが言いました。

まぁ、今回が初体験だったのですが、披露宴って別にそんなに楽しいものでもないですね。二人の馴れ初めとか適当にスライドショーを流してるけど誰も見ちゃいないし。がやがや騒がしくてあまり会話する気にもなれないし。黙々と料理食べて酒飲んで、って感じです。喫煙所でタバコ吸ってたら議員バッジつけたクソみたいなジジイに話しかけられたり。祝電も豪華でしたね。無駄にプロ野球選手からきてたり。何のコネだよ……。

さて、つつがなく披露宴も終わり、適当にラフな私服に着替えて、結婚式場があったホテルの一階のロビーでオクナくんを待ちます。二次会をしない予定だということで、奥さんも連れて、大学時代の友人たちで軽く飲みに行くことにしました。適当なワインバーで酒を飲んでいたら、奥さんから「あの、奥山くんのスピーチ、すごく良かったです。本当にありがとうございました」と言われたので、まぁ、良かったんじゃないでしょうか。ちなみに奥さんはこれから、オクナ家の資産管理会社で働くらしいです。実家の資産管理会社ってなんなんだよ……。

僕「これから働くことになったよ」

ずっと言いにくくて言い出せなかったことをオクナくんに言ったら、横にいた友人たちが「オクナの親父の会社で働かせてもらえよ」と茶々を入れました。「奥山くんが働いてくれたらすごくうれしいよ」とオクナは適当なことを言います。それだけは死んでも嫌だなと思いました。

飛行機の時間が近づいていたので、大学時代の友人たちと乗り合わせてタクシーで空港へ。手荷物重量オーバーで僕だけ引っかかり、よく考えるまでもなく引出物が余分のようでした。箱を開けると、食器とスポンジケーキが出てきました。外箱をゴミ箱に捨てて、荷物を減らすためにケーキは手づかみで分けて食べることにしました。空港のベンチで皆でケーキを食べながら、「あー、僕も結婚してぇな」と僕がこぼすと、横で一緒にケーキを食っていた友人たちが、「俺はいいや」「俺も」と口々に言いました。「なんか大変そうだし、つまんなそうだし」「自分の時間とかなくなりそうじゃん?」マジか。ミョンちゃんに同じことLINEで伝えたら、「どの口が言うの? 無職の癖に」と言われてしまいました。そりゃそうだ、たしかに。

結婚したいなぁ、本当に。

無職だけど。

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奥山村人

1987年生まれ。京都在住。口癖は「死にたい」で、よく人から言われる言葉は「いつ死ぬの?」。

@dame_murahito

http://d.hatena.ne.jp/murahito/