NATROM「ごしんじょう療法は、緩和ケアに有効ではないと思います。信じている人にとってなら心の安寧ぐらいになるでしょうが、癌性疼痛(がんせいとうつう=がんによって生じる痛み)などの症状に効果があるとは考えにくいです。川島なお美さんの場合には、強い痛みなどの症状がたまたま生じなかったため、最後まで、ごしんじょう療法を続けられたのではないか、と思います」
しかし中には、劇的に効いた!という人もいるようで、同HPには「鎮痛剤で効かないがんの激痛が、ごしんじょう療法で消滅」なる体験談が載せられています。冷えとり健康法でも手かざし療法でも(あ、これは宗教?)健康食品でも、巷の健康法において「アトピーが治った!」などの体験談が掲載されるのは、ど定番な手法。それを効果効能と受け取ってしまう人も少なくなさそうです。
NATROM「患者さんの経過を把握するために十分な医学的情報が含まれているのが、〈症例報告〉です。たとえば、年齢、性別、既往歴、生活歴、現病歴、診察所見、検査所見、画像所見、病理所見、診断根拠、治療法の詳細、経過などです。一方で、患者さんの主観が多く含まれるのが〈体験談〉です。『○○療法でがんが治った』という体験談はよくありますが、『がんが消えたと医師から言われました』とだけあって、がんが治ったと医師が判断した根拠が明確でなかったりします」
「体験談は、同じ病気の人同士が悩みを共有したり、医療者の視点から見落としがちな医療の問題点について気づかせてくれたりします。しかし、ある治療法の効果の有無を判断する材料にはなりません。また、代替医療の宣伝に使われている体験談の中には、医学的な観点からみてあまりにも不自然で、捏造されたとしか思えないものも存在するので注意が必要です」
なぜ医療不信は生まれるのか?
ネットで出回る〈口コミ〉や検索した情報をコピペしただけのような〈適当なネット記事(バイラルメディアとか)〉も、その片棒を担いでいそう。しかし保険が使える一般的な医療があるにも関わらず代替医療を選ぶ人の中には、川島なお美さんががん治療を模索するなかでブログに「とんでも医者がたくさんいた!」と綴っていたように、〈医療不信〉がありそうです。こういった巷の医療不信は、どこから発生するのでしょうか。
NATROM「主にふたつの要因があると思います。ひとつが、現代医学が完全でなく欠点もたくさんあること。もうひとつが、現代医学の欠点をあおって利益を得る人たちの存在です。現代医学が治せない病気はいくらでもあります。治療にはどうしても一定の割合で副作用や合併症が生じます。病院での待ち時間は長いですし、説明不足だったり、態度が悪かったりする医療者もいます。医療ミスや薬害もあります。こうした現実が医療不信の原因です」
「私たち医療者の努力不足があるのは確かです。少しでも状況を改善できるよう、努力していきます。ただ、医療不信の原因の一部には、医療不信をあおって利益を得る人たちの存在もあると思います。標準的な医療を否定することで、代替医療を売ったり、出版や講演会でお金を取る人たちのことです。現代医学が不完全であるといっても、治したり、予防できたりする病気もたくさんあります。大事なのは、利点と欠点を正しく把握した上で、納得して医療を受けることです」
典型的なのは、近藤誠医師の「がんもどき理論」(それなに?という方は検索!)ですね。
また、代替医療とは少し異なるかもしれませんが〈反医療〉といえば、〈自然なお産〉を尊ぶ人たちの「医療介入のないお産こそが自然ですばらしい」という価値観も、女性の間ではよく知られています。それらの人たちも含め、代替医療を選ぶ人たちは〈代替医療者=患者の気持ちに寄り添ってくれる〉〈病院=患者の気持ちは無視〉というステレオタイプなイメージを持つ人が多い印象があるのですが。