会いたいのは君のすべてを掌握したいから
『トリセツ』だけでなく、西野カナは、「支配されることによる支配」の歌ばかり歌っているように思います。
●「会いたくて 会いたくて 震える」……『会いたくて会いたくて』
●「会いたいの私だけなの? 会えなくて切なくなる」……『遠くても』
●「今日も会えないの? いつ会えるの? 会いに来て」……『もっと…』
●「会えない時間にも愛しすぎて」……『Dear…』
と、「会いたい」気持ちが爆発しすぎて恋愛依存症のような状態の楽曲が多い西野ですが、彼女の定義する「会いたい」は、物理的な距離感のことだけではありません。むしろ、「物理的に接触したい」という欲望よりも、「相手の情報を把握したい」という欲望が色濃くあらわれているのではないでしょうか。
●「誰よりも君の全てを知っているのに でもどうしてもあの子じゃなきゃダメなの?」……『会いたくて会いたくて』
●「知らないバンドも好きになって ヒールはあまり履かなくなって 新しい私全てが You taught me everything 君色で満たされてたの」……『君色』●「性格も癖も好きなものも 全部わかってるけど」……『HONEY』
●「Oh 勝手に更新される アイツの最新情報 No way! Who is this pretty girl? まさか彼女かな」……『Believe』
西野カナの楽曲は、「会いたい」アピールだけでなく、「あなた(恋人・元恋人・友人)のことは全部知っている」アピールも相当なものです。付き合っている恋人だけでなく、別れた恋人の恋愛関係をチェックしていることが読み取れる歌も多いです(『会いたくて会いたくて』『Believe』『True Love』『Where are you?』など)。
知りたい、見たいという欲望は、主体的な欲望です。西野カナの歌詞に出てくる女性は、「私全てが 君色で満たされてたの(『君色』)」のように客体的で、「ねえ Darling 脱ぎっぱなし 靴下も裏返しで もー、誰が片付けるの?(『Darling』)」のように必要以上に献身的でありながらも(脱いだ靴下を片付けることくらい、小さな子どもにでもできますから!)、それ以上に、「知りたい、見たい、あなたの情報を全て掌握したい」という欲望がダダ漏れになっているように思います。
こうした、「(恋人に)支配されることによる支配」、客体的・献身的・マゾヒスティックな支配欲、客体として主体を支配するというねじれた主体性があるからこそ、西野カナの楽曲は「誰かに愛されることで唯一無二の私になりたい」若い女性に多く支持され、そして、2ちゃんねるなどのホモソーシャルとミソジニーが強い空間でたびたび叩かれるのではないでしょうか(マゾヒズムによる権力の転覆は、マッチョな権力を内側から破壊するからです)。
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