連載

傷だらけの左腕にはえた産毛は、自傷少女の希望でした。

【この記事のキーワード】

傷の数だけ理由(ワケ)がある

夏に少し日焼けしたので、現在私の左腕の傷跡はほんの少し白く浮いてしまっています。私はアルコールがダメな体質なのですが、以前半袖でほんの少しお酒を飲んだ時は腕が真っ赤になり、傷跡がビックリするほどくっきりしてしまい驚きました。

しかし、一、二年前だったでしょうか。傷跡にある変化が訪れました。深く切った箇所や10針縫った部分は、皮膚の表面がつるつるになっていたのですが、ある日、そのつるつる部分に産毛が生えているのを発見したのです。

これはかなりの驚きでした。てっきり毛根とかそういう類のものが死滅してしまったと思っていたのに、短い産毛は確かに傷跡から伸びていました。

何故か、それが嬉しかったんです。多分、この何年かで皮膚組織が回復したとか細胞が入れ替わったとか、理由はあると思うのですが、何だか、自分が生まれ変わったような不思議な気持ちになりました。

もちろん、上に書いた通り傷跡自体は残ってますし、切り過ぎた所はでこぼこしています。それでも、産毛という新たな命が(と言うと少し変ですが)、自分の身体に、あれだけズタボロだった左腕に生まれたのです。

腕の産毛なんて、処理がめんどいランキングでもかなりの上位に食い込みそうな存在ですが、私にとっては「自傷が過去になった証」のように思えました。

「私は生きている」

そう思いました。

散々切ったけど、命があるから、生きているから、生き延びたから、こうして産毛が再び生えてきた。もし本当に自傷で死んでしまっていたら、こんな生の実感は味わえなかったでしょう。

私はもう、「振り出し」には戻りません。

自傷行為を否定はしません。だからといってけしかける気もございません。私が卒業生として言えるのは、「後々、色々めんどいよ」ということと、「傷の数だけ理由(ワケ)があるから、十把一絡げにジャッジしない方がいいよ」ということです。

「やめなきゃやめなきゃ」と無理に焦ることはありませんし、「やめさせなきゃやめさせなきゃ」とオブセッシブになることもありません。周囲の人間が切羽詰まると、自傷している側も敏感にそれを察知するものです。でも自傷している人にとって、自傷はたいがい大きな(そして唯一の)術であり、それを頭ごなしに否定するのはその人の存在を全否定することと近いと私は思います。

私はOGですが専門家ではないので、「自傷している人にはこう接すべき!」というハウツー的なことや、「自傷はこうすれば治る!」なんて無責任なことは言えません。前回は私の体験から個人的な意見を書きましたが、本当に、人それぞれなんです。この連載で繰り返し書かせて頂いた通り、自傷にも様々な理由がありますし、またその理由は変化します。

傷の数だけ理由(ワケ)があります。メディアの情報や変な先入観に左右されるのではなく、まずはその人個人の理由(ワケ)に耳を傾けてみて下さい。そして、この連載も鵜呑みにしないで下さい。私が十一回にもわたって書かせて頂いたのは、あくまでも戸村サキというひとりの人間のケースです。私は一例にすぎません。

この連載が、自傷行為への誤解や偏見を取り除く、小さなきっかけとなることを心から祈っています。

1 2

戸村サキ

昭和生まれ、哀愁のチバラキ出身。十五歳で精神疾患を発症、それでもNYの大学に進学、帰国後入院。その後はアルバイトをしたりしなかったり、再び入院したりしつつ、現在は東京在住。

twitter:@sakitrack