連載

『俺物語!!』は至上最強の男と至上最強の女の保守的な恋愛物語である

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 主人公の猛男が男性社会において最も高く評価される男性である一方で、ヒロインの大和凛子は、至上最強の“女子力”の持ち主です。「健気で小さくかわいらしく」「お菓子作りやかわいいものが大好きで」「ひたむきに男を立て」「一生懸命だが鈍くさく少し野暮ったい」「恋愛に関しては意外と策士だが、その策は、あくまで“一人の男性に好きになってもらう・好きでいつづけてもらう”ためにのみ弄する」「適度な性欲を持ち男を拒むことがない」などなど、女子力スカウターがあったら測定不能で爆発しそうなレベルの“自主的な女子力”(社会から期待され押し付けられる女性性ではない自主的な女性性)保持者です。とりわけ、「恋心(性欲)に準ずる強かさは許されているが、それ以外に関しては利他性が求められる」というのは、『俺物語!!』 だけでなく、近年のヒットした少女漫画に共通の傾向であるのではないでしょうか。

 浮気や二股といった自らの快楽追求だけに基づく強かさや、「ライバルを蹴落とすためにトウシューズに画鋲を入れる」というような職業的妨害行為などは、近年の「誠実さ」と「コミュニケーション能力」が求められがちな少女漫画界では、ヒロインのライバルや敵役であっても“やってはいけないこと”とされ、減少しているように思います。また、凛子ほど利他的な愛情に満ち“女子力”の高いヒロインというのも稀です。ヒットした少女漫画のヒロインたちは、「外では綺麗で評価が高いけど、家ではズボラ」とか、「とりわけ美人ではないがピュアな性格でモテる」とか、「フツーの私がなぜか二人の男に愛されて…」とか、凡人的な描かれ方をしていることが多いのです。

 意地悪な見方をすれば、猛男と凛子の関係は、「より良い男性性」と「自発的な女子力」によって築かれています。シスヘテロ女性の求めるより良い家父長と、保守的なシスヘテロ男性から見た理想の女性の結びつきです。

 この作品(とりわけ、ルッキズムを否定するような主人公・猛男のビジュアル)は、「少女漫画の革命」「斬新な発想」などと称されることもありますが、猛男と凛子の関係性自体は、むしろ保守的な一対一の異性愛であり、つまり別の角度から見れば、『俺物語!!』の登場とヒットによって、既存の少女漫画のヒーローのイケメンたちは、ある意味保守的な家父長制や男性性の否定とも読めることが明るみになった、とも言えるのです。

 既存の少女漫画のヒーローの多くは、ルックスに恵まれており、その身体はいかつい顔とごつい巨体、ガチムチの筋肉といった男性性よりもしなやかで線が細く女性的な姿で描かれることが大半です。エグザイル系かジャニーズ系かで言えば、少女漫画のヒーローは圧倒的にジャニーズ系です。

 そして、女性的な男性、アイドル的な男性というのは、マッチョな男性社会の中では、「男らしくない」「なよなよしている」「女男」などと形容され、評価の対象になりにくい存在でありました。言い換えれば、既存の少女漫画は、マッチョな男社会で評価されない「男らしくない」男性に活躍の場を与えたものでもあったのです。

 確かに、社会において、「美容に関係ない仕事であるのに美しくなければ採用されない」「太っていたら出世できない」といったルッキズムによる差別はあります。ですが、ルッキズムには、少女漫画のヒーローが象徴する非男性性や反マッチョイズムといった既存の力学を破壊するような要素を持つものなど、必ずしも悪いだけのものでもないように思うのです。

 そう考えると、『俺物語!!』は、アンチルッキズムを示すことで、ルッキズムが持つ新たな可能性を示しているとも読めますし、人の見た目を好きになろうが、人の内面を好きになろうが、人間が何かを「好ましい」と思う感情は、決して公明正大なものではなく、良くも悪くも偏りがあるものであるということを示唆しています。

 いずれにせよ、ここまで『俺物語!!』がヒットした背景には、社会全体の保守化の空気や、「好き勝手に生きること」よりも、「より良い男性性」「より良い女性性」が求められるようになった時代性があるのではないでしょうか。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」