連載

成功したら「頑張った人」、失敗したら「駄目な人」 学び直しは美談じゃない

【この記事のキーワード】

成功しなきゃ叩かれる

 事件の翌日、さすがに反省した上原は、カフェで勉強することに決めました。受験生っぽい(笑)。カフェだと集中できるので、家に帰ったらその分、思い切り娘ちゃんと遊ぶこともできました。問題は……金銭的に苦しくなったこと(苦笑)。週1ペースでホステスに復帰してみたものの、今度はお酒と睡眠不足のダブルパンチをくらい、持病のアトピー性皮膚炎を悪化させてしまいました。

「酒がダメなら昼間のアルバイトを探すぞ!」

 持ち前の単純さで昼間のアルバイトを始めたものの、これがまたツラかった! 朝6時起床、お昼にアルバイト、そのまま急いで高校に向かい、家に帰る前にカフェで勉強、夜11時頃帰宅し、娘ちゃんの保育園の準備をしてから、深夜に再び勉強!勉強!! 勉強!!! 上がらない学力、貯まらないお金、娘ちゃんを追い詰めてしまった罪悪感にイライラが募り、全てを投げ出したくなりました。泣きながら「もう勉強しない!!! 高校なんて行かなきゃ良かった!!!!!!」と、参考書を破ったことも……。冷静になったときセロハンテープで修正するんですけどね。

 ある日、ふと鏡を見ると、髪の毛は伸ばしっぱなしで色にムラがあり、肌はボロボロで不潔なデブが映っていました。

「え……? 誰こいつ?」
上原です。

周りから「地味になったね」「ダサくなったね」「太ったでしょ」と連発されました。洋服は買わなくなったし、美容院に行かなくなった。高校入学時の体重は37キロだったのに、受験勉強をするようになってから15キロ増の52キロ。気付いた時には、オンナとしての価値が暴落していました。

 上原は、娘ちゃんを追い詰め、オンナとしての価値を捨て、なり振り構わず“学び直し”をしてきました。何かを犠牲にしたり、何かを捨てるのは、“学び直し”をした人みんなが経験しているのではないかと思います。

 例えば、シングルマザーの中には、子供と過ごす時間を犠牲にしないように配慮して睡眠時間を削りながら、仕事をしたり資格試験の勉強をしたりしている人がいます。そして、最終的に倒れてしまったり病気になってしまうケースもある。資金力が無いと、思うように勉強時間が確保できず、イメージしていた未来に近づくことができなかったりもします。勉強に取り組んだものの、途中であきらめて、挫折感を味わっている人も実際は少なくないでしょう。

 そういう人たちが、他人から「元々、頭が悪かったんだ」とか、「努力が足りなかったんだ」とか、突き放されてしまったら、もう何も言えません。高校で“学び直し”をしている間は、「苦労している人が頑張っている話」つまり美談として語られることが多いのにもかかわらず、短い高校生活が「終わってしまえば」、「挫折して中退したら」、「卒業は出来たけど就業することができなかったら」、「普通のレールから外れた人」に逆戻り。

 成人してから勉強に取り組む人たちは、きっと、色んなものを犠牲にしてでも現状から脱け出したい、今の環境を変えたいから“学び直し”をしてきたはずです。でも、報われるのは、ほんの一握りなんです。“学び直し”で上手くいった人達の本を読むと、必ず共通していることがあります。本人の努力だけじゃなく、周囲の手厚いサポートや引き上げてくれる誰かの存在があるのです。同じように“学び直し”をしても、そうした存在のあるなしで、人生が大きく変わってしまうんです。

 幸いなことに上原には、サポートしてくれるたくさんの人がいました。彼らのおかげで大学合格したし、ちゃっかり2つの連載を持つこともできました。「上原は学び直しに成功した」という自慢話をしたいのではありません。「こんなに頑張っている!」と褒めて欲しいわけでもありません。私は本当に運がよかっただけです。その上原のケースを美談として語ってしまったら、語られてしまったら、本当はもっとつらい“学び直し”が、結局「美談」で片付けられてしまって、何も変わらないことになってしまいます。そもそもまだ成功したかどうかもわからないですし……(笑)。

学び直しなんて言葉がなくなればいい

 “学び直し”は精神的、肉体的、金銭的にキツい。その上、何か犠牲をはらうことがあります。資格取得(シングルマザー=看護師・介護士・保育士)を周囲から期待されていたのに、別の職業を選んでその期待に応えられなかったとき、周りの反応は一気に冷たくなります。それと同じように“学び直し”をして高校卒業したのに、定職に就かなかった/就けなかった人にも冷たい。年齢制限や学歴で履歴書を出せない企業が少なくありません。

 一般には、18歳で高校を卒業して、22歳で大学を卒業することが期待されているのかもしれません。そういった前提があるから“学び直し”という言葉があるのだと思います。だって誰がいつ、どんな形で勉強を始めようと、それは“学び直し”ではなく“学び始め”のはずなのに、わざわざ“学び直し”という言葉を使っているんですから。“学び直し”という言葉を作り出す社会の雰囲気がなくなったら、苦しい中で学んで良かったと思える人はきっと増えると思います。

 はて……上原が報われる日が来るのかは謎ですが。目の前にある基礎ゼミのレポート、新聞の原稿と知り合いのお手伝い、娘ちゃんの授業参観…(白目)。そっと手帳を閉じて、11月なのに27℃を越える、沖縄の空の下で、アイスでも食べてきます。

1 2

上原由佳子

1988年生まれ。沖縄県在住。シングルマザー女子大生。女子力の欠片もなさを小学1年生の娘ちゃんから指摘される、どうしようもない系アラサー女子。

@yu756ka