連載

草食男子への軽蔑の根源について。恋愛強制イデオロギー大国・日本

【この記事のキーワード】
(C)柴田英里

(C)柴田英里

 先週・先々週と、大ヒット少女漫画『俺物語』における恋愛観と、「異性の恋人を作ることに興味がないイケメン」として描かれる主人公の親友砂川誠について書いてきました。

■『俺物語!!』は至上最強の男と至上最強の女の保守的な恋愛物語である

■恋愛に興味のない『俺物語!!』砂川がストーカー被害者として描かれないことについて

 『俺物語』の中で砂川誠は、モテモテで頭も良く親友への思いやりに溢れ、いつも気配りができるイケメンとして描かれ、恋人のいない現在を楽しんでいます。しかし、主人公であり親友である剛田猛男は、たびたび「おまえに 好きなやつ できるといいな!」と、恋愛することを勧めています。

 恋愛に興味のない人に対して、「恋愛は本当に良いものなのに、それを楽しめないなんて残念だ」とか「本当に人のことを好きになれば考えが変わる」とか、「恋愛が好きじゃないなんて、冷たい人間だ」とか、未成熟や冷酷というレッテルを貼られてしまうことさえあるように思います。

 恋愛を第一に考えない・恋愛にあまり興味のない男性をポジティブに捉えて「草食系」と名付けた編集者である深澤真紀さんの意図とは裏腹に、「草食系」と言う言葉は、男性に対する揶揄として広まりました。

 確かに、肉食動物=捕食者=草食動物より強い、草食動物=捕食対象=肉食動物より弱いというイメージは一般的であるので、「草食=弱い」という印象を持つのは仕方ないことですが、なぜ、恋愛欲や性欲が弱いことや、恋愛に積極的でないことが、人間界において「良くないこと」と捉えられるのでしょうか。そして逆に、恋愛欲や性欲が強い男性や、恋愛に積極的な男性は、はたして優れているのでしょうか?

 いずれにせよ、男性が恋愛およびセックスを人生の第一義に捉えていないというだけで、「草食系・絶食系・不食系」と揶揄されている背景を考えると、社会において男性たちへの恋愛強制イデオロギーは大変に大きいと思います。

解放されない男たち

 日本が恋愛強制イデオロギー大国であることは、恋愛の歌ばかりのJポップや、消費行為と恋愛をやたらに結びつける広告やイベントの多さからもわかることです。強制されていることにも気付かず、それをごく当たり前のことと認識している人は全体の多数派でしょう。だからといって、そのイデオロギーに関心が薄い、又は全く興味がない男性を「草食系」(恋愛をしていない女性を「干物女」というのもありますが)と揶揄して良い理由にはなりません。

 二つほど例をあげます。

 古事記の日本創世の話は、女性神であるイザナミから声をかけて行われた子づくりの結果産まれたのはヒルコ(蛭子)という奇形児であったため海に流した。男性神イザナギから声をかけて行われた子づくりの結果、様々な神と日本列島が産まれたという。これは、「女性の性欲=間違い」「男性の性欲=正しい」ともとれる視点であり、非常に男女非対称な性の描かれ方をしています(ヒルコ(蛭子)は後にえびす神として民間信仰されますが)。

 バイアグラは、平成11年1月25日に医薬品として承認されましたが、申請から2~3年かかることが普通である医薬品の承認において、申請からわずか6カ月という異例のスピードでした。これは、2~3年で承認されることが普通な医薬品業界において、申請から承認までに9年かかったピルとは対照的です。

 いじわるな見方をすれば、男性器が勃起しないことは、早急に対策がされなければならない重要な問題であることに対し、女性が自らの性をコントロールすることは、別に必要のないことである。とでも言うかのようです。

1 2

柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」