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芸能人小説で学ぶ経済学。デフレ下の消費行動を描いたダンカン『節約家族』

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ダンカン『節約家族』(世界文化社)

ダンカン『節約家族』(世界文化社)

先日、ふと思い立ってここ20年間の日本の消費者物価指数の推移を調べてみた(いまはこういうサイトがあるからGoogle検索一発で情報にアクセスできるから便利だ)。改めて驚いたのは、ほとんど消費者物価指数が横ばいのまま、20年間を過ごしている現実だ。グラフを眺めていたら「デフレ時代」を強烈に実感してしまった。

普通、経済が上手く回っていれば、物価は上昇していく。つまり、インフレが起こる。例えば、お隣の国韓国を見てみると、(近年急速に経済成長が鈍化・不景気が心配されているとはいえ)1995年から平均年3%以上の物価上昇がおこっている(参考)。ごく単純に言うと韓国では、今年100円で買えるものが、来年には103円出さないと買えなくなる時代が20年繰り返されてきたわけだ。なお、韓国の銀行の定期預金の金利はだいたい3%ぐらいだそうだから、物価上昇と比べて「貯めておくよりも、今使ってしまったほうが良い」と思う人がいるだろう。

デフレ時代の日本では、これとはまったく逆のことが起こっていた。物価は上がらず、むしろ、下がる年もあった。100円のものが来年には98円ぐらいで買える、というならば(貯蓄していても増えないけども)使わずにとっておこう、という気になるだろう。もしかしたら、再来年には100円で買えるものが96円で買えるかもしれない……第一、これからどうなるかわからないから、お金を持っていた方がいいかも……と。不安が消費を止め、経済が回らない状況を作ってしまう。

「ダンカン、バカヤローッ」でおなじみだが、実際にビートたけしからそう罵倒されている姿を見たことがある人のほうが少数派であろうタレント、ダンカンが著した小説『節約家族』(世界文化社。2009年)は、まさにデフレ下の日本人のメンタリティを反映するかのような作品だ。主人公の奈美子は、東北の貧乏な家に生まれて、貧しい暮らしぶりをコンプレックスに育った女性だ。彼女は、高校卒業とともに東京に出て就職する。

彼女が上京したのは(作中で正確な年は記されていないが、おそらく)1980年代末、いわゆる「バブル」の時代である。同期の女性はみんなディスコだ、ねるとんパーティーだ、と浮かれている。それを尻目に、もらった給料を彼女はコツコツと貯め続けている。貧乏だった過去を復讐するために、貯めた貯金で「都心の高層ビル群が見える一戸建てを買う」という夢を抱いているのだ。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra