
(C)ふわふわのイス
こんにちは、ヒラマツです。前回に引き続き、家族観インタビューとして、村のように賑やかな家に住むKさんMさん親子のインタビューをお届けします。(取材日:2013年9月)
Mさん帰宅(登場)
友人T Mさん(=Kさんのお母さん)帰ってこないね。
Kさん うん、母さん買い物長いからね。母さんはね、20歳から私を産むまでずっと、ジャズ喫茶で働いてて、店長やってたんだよ。それで料理ずっとしてたから、料理が大好きなの。弟を産んでからは小料理屋で働いてた時期もあるけど、今は会社員をやってるよ。
……と、噂をすれば、「ただいま~」と、MさんとYくん(=Kさんの弟)が買い物から帰ってきました。帰宅早々、私が切り出す間もなく、すぐにMさんは来客中の子たちと喋りながら夕食の支度を進めていきます。そして私にも「こんにちはー。Tちゃんのお友達ね、いらっしゃい。汚くてごめんなさい」と話しかけてくれ、料理をしながらインタビューさせてくれました。テキパキと淀みなく手を動かしつつ、昔の話を振り返るMさん。程なく、Kさんは気を遣ってくれたのでしょう、タバコを1本吸ったら自室へ戻っていき引き戸を閉めました。
――今、妊娠中で、もうすぐ子供が産まれるんです。
Mさん えー、そうなの!? おめでとう! けど何で私にインタビューするの? 私、産婦人科医でもないのに(笑)。
――実は、シングルマザーになることが決まっているので、ちょっと先輩の話を聞きに……。
Mさん なるほどねー。格好良いじゃない! そういうことか。いやー、「Tちゃんの友達、話聞きにくるって、何を聞きにくるのかしら?」とか言ってたら、R(※Rくん=親子ぐるみで仲が良いドイツ人の幼馴染。取材当日もT家にいました)が「こんな家でも生きてる、っていうの見に来るんだ」って言うの、ヒドイでしょ?(笑)今いくつ? まだ学生さん?
――はい、今大学4年生で、21です。
Mさん あらー、いいわね、若いママ素敵じゃない! で、学生ってことは、お金は?
――少しの間は私の親が生活費の面で協力してくれることになりました。
Mさん じゃあ何の心配も要らないわよ! いや、ごめんなさいね、やっぱりお金が無いっていうのは心配だけど、それが大丈夫なら大丈夫よ! 一番いいわね、結婚せずに子供だけっていうのが、やっぱり一番幸せっていうか。自由を勝ち取ったって感じよ!(笑) ちなみに、その子のお父さんは知ってるの? 結婚したがってないの?
――子供ができたことは知ってます。結婚は、私が一番最初に言っちゃったんですよね、したくないって。子供の父親と子供との関わりを絶つ気もないし、別に隠せとか言われない限りは子供本人に父親の存在を隠すつもりもないし、基本的に他のことはだいたい何でもいいっていうか、ゆっくり時間かけて話し合って決めればいいと思ってるけど、私は結婚だけはしたくないんです。だから、もし彼の頭に「子供ができたんだから結婚しなきゃ」という選択肢が思い浮かんでたとしても、私に言い出せなかったんじゃないかな。
Mさん おー、日本もやっとこんな時代になったよ、R! やっとあたしたちの時代きたよ!
Rくん やったねー!
Mさん あー、そうそう、でも会社の面接とか行くと未だに「私生児ですか?」なんてビックリするようなこと聞かれるよ。私生児って、いつの時代の話? って感じでしょ?
友人T シセイジって、何?
Mさん 今の子みんな知らないよね。ワタクシが生む子供って書くの。昔の言葉で、親がいない子って意味。
――知らなかった。でもワタクシが生みたくて生む子だもん、間違ってないというか。
Mさん 「誰の子?」って聞かれたら、「私の子!」って答えるもんね。そうそう、Rのお母さんなんかも最初っから結婚なんてする気がない人でね。Rのとこはもっとすごいよ。お父さんいっぱいいるしね、兄弟もいっぱいいるの、家族に恵まれてるんだよね。
Rくん うん。
Mさん 日本だけだよ、こんな結婚制度にのっとらなきゃいけないの。
――そうですよね、私も産むまでの色々、例えば周りに理解を得ることや役所での手続きなんかが、今ひとつスムーズにいかないなぁって思ったから少し調べてみたけど、やっぱり婚姻制度ひいては戸籍制度の存在が「未婚で子供を産む」って選択とか、ひとり親って状況を阻んでくる感じがありますよね。
Mさん そうそう。だって人間が作った制度だもん、そんなのどうでもいいよね。マユコちゃん、えらいわ! 赤ちゃんの性別が男の子か女の子かはもう分かったの?
――聞いてないんですよ。別にどっちでも、何でもいいから。
Mさん 一緒だ! 私も聞かなかった。それに私ほら、Yは40歳のとき産んでるから、ダウン症じゃないかとか検査を勧められたの。でもその検査も受けなかった、「だったらなに? おろせって言うの?」って。そんな“人を選ぶ”ようなことしたくなかったし、それに40歳でまた妊娠できたこと自体が嬉しくて、生活も何の保障もないけど産みたいなって思ったの。それでフランスの友達に「子供ができちゃった!」って連絡したら、彼女も子供二人産んでるんだけど「子供は産んだもん勝ちよ!」って励ましてくれて、そうよねって納得した。人生一度きりだもの、子供に恵まれたのはラッキーだと思う。
――ほんと、そうですね。しかも私なんて他の条件も色々ラッキーですし。
Mさん ねー。親に感謝しろっ(笑)。じゃあ、あとは元気に赤ちゃんを産むだけだね。でも私は1回目も2回目も産むのに3日くらいかかって大変だったのよ。子供を産むのって、すっごい痛くて辛くて、「仕事とかは何でも人が協力してくれるけど、産むのは私1人で頑張るしかないんだ……。でも今まで何億とか、もっと数え切れないほどの人たちがこれをやってきたのか……」とか色々考え出したら気が遠くなりそうだったわ。でも私は、帝王切開だけはしたくなかったの、2回とも。なんか、自然分娩の方が子供のためにいいと思ってたのよ。Yの時なんか、通った産婦人科の先生がすごい良い方なんだけどちょっとボケてるおじいちゃんでね、2週間おきの診察で毎回「あんたは骨盤の形がおかしい(から経膣分娩は難しい)」って言われて、私も2週間おきに毎回「でも13年前にも自然で産みました」ってセリフを、産むときまで言い続けたの(笑)。それに、私、怖いもの知らずだからさ、臨月まで仕事もしてたし自転車も乗ってた(笑)。ていうか、予定日過ぎてからも乗ってたわ。ちょうど働いてた喫茶店が予定日の1カ月前に立ち退きになったの。だからギリギリまで頑張った。社長に「退職金やるから取りにおいで」って言われて、自転車で取りに行ったときはもう予定日を過ぎてたんだけど、社長に「おめでとう、お疲れさま。それで、予定日はいつだ?」って聞かれて、「もう過ぎてるんです」って言ったら「こんなところで何してるんだ!?」って怒られちゃった(笑)。