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おっぱいは誰のもの? セックスワーカーを差別する「おっぱい募金反対署名」は善なのか

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裸を商売道具にする女性は全員「搾取されている」のか

 おっぱい募金の反対署名には、企画におっぱい提供者として参加したAV女優の個人の意思を尊重せず、彼女たちを一方的に「搾取される女性」と決めつけるものが目立ち、AV女優が自らのスキルを生かして社会貢献することへの視線がありませんでした。

 AV女優にとって、裸は商売道具であり、「おっぱいを揉まれること」は仕事スキルの一つです。性産業従事者が、自分たちがより安全に仕事をするために自分のスキルを生かして行動するという視点がはじめからないというのは、自らの意思で性産業に従事し、誇りを持って仕事をしている女性の存在を無視することであり、「個人の意思」を尊重しないことであり、女性の人権の向上を目指すこととは真逆の発想です。

 鈴木涼美『AV女優の社会学』などを読むと、性産業の中には、女性を言いくるめたりすることで半ば無理矢理仕事をさせるなど、女性を搾取する場合もあり、こうしたことは改善されるべきことです。また、AV女優には、仕事に関するネガティブな感情を言葉にしづらい状況や、業界の悪い部分を指摘しにくい点もあるでしょう。AV女優がAV業界を悪く言うことは、一般企業で例えれば、営業が営業先で自社製品や自社の悪口を言い、それが上司にも筒抜けになるようなものなのですから。

 ですが、いくらそうしたケースがあるからといって、自らの意思で性産業に従事し、誇りを持って仕事をしている女性もいることを忘れてはならないのです。女性の人権の向上を目指すなら尚更にです。

 署名のステイトメントには、「エイズ対策のために真剣に戦っている世界中の人たちに対しても失礼」とありますが、セックスワーカーにとって、AIDSに関する知識や予防法が広まることは、仕事における危険を減らすことにつながりますし、「STOP!AIDS」の募金であるからこそ、性に関心はあるけど、真面目な募金には関心があまりないというような人たちにも広くアピールできることは悪いことではないと思います。

 「おっぱいを触らせている女性たちがその対価として受け取るはずの「報酬」を(全部か一部かはわかりませんが)放棄する」ともありますが、おっぱい募金におっぱい提供者として参加することは、AV女優にとっても宣伝活動になりますし、「手を消毒してからおっぱいを揉む」「入場者は写真付きの身分証の提示が必要」「会場は中継される」など、おっぱいを揉まれる女性への安全対策も比較的しっかりしているのではないでしょうか。

 それに、「募金活動がスカパーやAV女優の宣伝にもなることはけしからん」「100%下心がない募金活動以外募金と認めません」というなら、「音楽を聴きたい」という気持ちにつけ込んだチャリティーコンサートや、「ものが欲しい」という気持ちにつけ込んだチャリティーオークションなどは、全て「やるべきではないこと」になってしまいます。

 売名行為が全くなく、所属する団体の利益や環境改善も全くない募金だけが“正しい”募金なのだとしたら、募金の主催者は匿名顔出しNGで行わなければならなくなります。顔も名前もどういうことを行っているのかもわからない団体にお金を出すことを躊躇する人は少なくないように思いますので、良い活動のあり方とは思えません。

 おっぱい募金の中止を求める自由はありますし、AV女優をはじめとしたセックスワーカーたちがより安全に仕事が出来るようにするきっかけを作りたいというのであれば、それは有意義なことです。でも、今回の「おっぱい募金反対署名」のようなやり方は、はたして有用な方法でしょうか?

 主催者がAV女優の安全やAIDSに関する知識や予防法をより効果的に周知するために内容を再考することは悪いことではありません。

 しかし、それを訴える手段として、「もし自分がエイズ患者だったら、こんなイベントで得たお金で助けて欲しくない」「醜悪」というような言葉が書かれた「おっぱい募金反対署名の言葉(コメント含む)」のように、性産業やAV女優への差別意識があらわになっているものは適切ではないと思いますし、そこにある職業差別は無視して良いものでは到底ありません。

 いくらその差別的な言葉が「おっぱい募金」を企画した会社に対してのものであったとしても、企画に関わったAV女優の方への配慮に欠けることは明らかです。参加したAV女優の方のTwitterを拝見する限り、そうした職業差別や嫌悪の感情は、彼女たちに伝わっています。

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」