イベントでは、〈おせん〉という女性がまさに四ツ目屋の持ってきた性具を選んでいる春画が紹介されました。たいていの春画では性器が誇張して描かれますが、張型もまた然り、腕以上に太い張型が並ぶとなかなか壮観です。そして、画面の隅には、破れた障子のあいだからニョキッと伸びる女性の手が描かれていて、しかもその手はお金を握りしめています。つまり、訪問販売が来ているのを察知して、近所の奥さんが「私も買うわ」といっているんですね。な~んだ、秘密といっても公然のもの。「オモチャなんて使ったことありません、はしたない!」って顔をしなくていいというだけでも、いまより自由な気風を感じます。
しかもおせんさん、別の絵ではその張型を使って養子の男性とセックスしています。未亡人が自分の欲望を満たすために若い男を養子にするというのは春画の定番シチュエーションで、肉体によって〈親孝行〉させるのです。それだけの底なしの欲望ですから、男は若さをもってしても満たせず、結果、張型でご奉仕……って、すごいなオイ。
当時の張型は、水牛の角やクジラの歯、べっこう……いまとなってはワシントン条約的にアウトなものばかりで作られていました。私などは「硬くて痛いのでは……」と思ってしまいますが、江戸の女性たちには歓迎されていたようですね。春画にはそのほかにも、いまでいうペニスリングをはじめとする勃起サポートグッズがたびたび登場します。「兜形(かぶとがた)」という避妊具もありました。これもべっこうや水牛の角で作られていて、亀頭に被せて使うとのこと。効果のほどは多分に疑わしいのですが、当時としては画期的なアイデアだったのでしょう。私がかつて試したことのある〈肥後ずいき〉も春画に描かれています。「アダルトグッズは春画のなかでも頻出するので、庶民にとっても身近なものだったのでしょう」とは、浦上満さんの談。
江戸と平成をラブグッズが繋ぐ
同イベントでは、irohaブランドの最新シリーズ「iroha+(イロハプラス)」がお披露目されました。水牛の角だ、クジラの歯だ、べっこうだと材質は豪華でもどこか素朴さをともなった江戸のグッズと、女性の心と身体に寄り添って快感を引き出す平成の最新ラブグッズとのあいだには一見すると大きな隔たりがあるように見えます。けれど、浦上満さんが、
「男女ともにおおらかな性を愉しみ春画が愛された江戸が終わり明治になると、西洋に対してこうした文化を〈恥〉とする感覚が生まれ、特に女性にとって暗い時代が訪れました。『幼くしては親に従え、嫁しては夫に従え、老いては子に従え』といわれるようになったのです」
とお話されたとおり、そこから女性がオープンに性を愉しむことがタブーとされる時代が長く続きました。それはいまの社会にも、根強く残っています。でも、もうそんなのに囚われなくてもよくない? 女性たちみずから自由になっていく方向をもっともっと目指そうよ、そのほうがハッピーに生きられるよ! というメッセージを発信しつづけているのが「iroha」シリーズです。セルフプレジャー、という語には女性へのエールが込められているように私は感じます。江戸の女性たちのセックス観を現代につなぐには、ぴったりのメイド・イン・ジャパンなラブグッズということですね。
そんなわけで、次回は「iroha+」の使用感をレポートします。初代「iroha」から約3年、進化の具合をしかと身体でチェックします!
(桃子)
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