上原 自分がそうだからなのもあるけど、やっぱり「かわいそう」と「明るい」のどちらか一方で切り取るのって間違いだと思うんです。
赤石 かわいそうでもあるけど、元気に生きている。毎日泣いているわけじゃなくて、ニコニコ笑っている日もある。「かわいそう」じゃないと気持ちよく制度を利用できないって、「毎日泣いていろ!」って言われているのと一緒ですよね。
上原 「かわいそう」も、「真っ当にかわいそう」じゃないとダメみたいなんですね。連載でも書いたんだけど、今年、沖縄のうるま市で、赤ちゃん置き去り事件が起きました。中学生の女の子が出産して、どうすればいいかわからなくて捨ててしまった、という事件なんですけど、発覚から数日後に、沖縄タイムスが「中学生の母親は昼夜働いていた」ことを記事にしたんです。
赤石 川崎市中1男子生徒殺害事件に似ていますね。子どもを殺されたシングルマザーも、昼夜問わず働いていたことがあとで報道されていました。この事件のお母さんもバッシングされていたけど、そのことが分かってからは少し収まったような気がします。
上原 そうなんですよ。だけどうるま市の事件はそうならなくて、むしろ「お母さん叩き」が強くなっちゃったんです。沖縄タイムスが記事にする前からネットでは「あいつは水商売をしていた。不真面目だ!」と書かれていて、記事になってから「やっぱりそうだ!」って勢いが増してしまって。「介護職」だと「真っ当にかわいそう」だけど、「水商売」はそうじゃないと思われてしまう。
赤石 「平成15年度 沖縄県ひとり親世帯等実態調査報告書」を見ると、沖縄のひとり親の帰宅時間って、他の県よりも圧倒的に遅いんです。夜0時以降が12%、朝帰ってくるが3%とか、こんな調査結果は他の県だとありえない。沖縄県の主要産業は観光業だから、サービス業に就いているとどうしても帰宅時間が遅くなってしまうのでしょうか。この状況に手を打たないと、社会全体による集団ネグレクト状態にあるってことになってしまいます。
上原 希望して「水商売」に就いていたのかもしれないし、あるいは「水商売」しかなかったのかもしれない。どんな仕事に就いているかで「真っ当にかわいそう」かどうかを判断するのは違うと思う。例えば「沖縄はこういう状況だから、こんな制度や支援があると助かる!」とう声も、「真っ当でかわいそう」じゃない当事者が発したら、「贅沢だ」なんて言われちゃうかもしれない。そしたら社会的に厳しい背景があっても、ただ耐えるしかなくなっちゃう。
赤石 「真っ当にかわいそう」な範囲がどんどん狭くなっちゃうかもしれませんね。
上原 そう思うんです。そしたら結果的にツラい思いをする人が増えちゃいますよね。だから、この連載で、そういう部分をちょっとでも塗り替えたいなって……。
赤石 制度の中には行動を制約するような記載はないのに、社会の目を気にして動きづらくなってしまったら、シングルマザーの可能性が閉じられてしまいます。それは当事者だけでなく、社会的な損失にもなってしまう。自己決定の尊重をしながら、よりよい人生を生きてもらえたらいいですよね。
上原 コメント欄には、批判の声ばかりじゃなくて、賛同の声もたくさんありました。「コメント欄を閉じちゃったのは残念です」って言ってくださる方が何人もいて嬉しかった。連載が終わるまでは、明るく書いて「かわいそうじゃなくてもいい」ってメッセージを発したいと思います!