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惹かれ合う男女は実は守護天使で…お花畑一直線な中山美穂 『アタシと私』

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ともあれ、現実世界を無視してお花畑世界一直線なこの世界観は、中山美穂らしいと言えば中山美穂らしいのかもしれない。アレでしょ、彼女がバッシングされていたのも「子供がいるのに、パリで若い恋人とイチャイチャしててけしからん」的な感じではないですか。それは「責任を果たさずに、遊んでいるのはけしからん」という正義の代弁だ(そして、半分『責任を果たさずに、遊べて羨ましい』という妬みも混じっているのだろう)。

その怒られているポイントとは『アタシと私』の現実離れした部分と通じているようにも思われるのである。この小説が発表された1997年の時点ですでに中山美穂の頭の中はお花畑だった。現実にコミットしている形跡がどうやら認められない。そして、今バッシングしている人びとも、要するに中山にコミットメントの要求をしているわけだ。「子供にちゃんとコミットしろ!」と。間違いなく今のタイミングでこの作品を出していたならば、また「こんなお花畑な頭をしているから、子供を放っているんだ」といったバッシングが起きて、「ネットでは批判の声があがっている」というネットニュースのネタにされていたのだろう。

人によっては時間の無駄

さて、今回も含めて14回の連載のなかで15冊の芸能人によって書かれた小説を取り上げてきた。半年でこれだけ芸能人の小説を読む、というのもかなり得難い経験だと思う。が、得難いだけで実りが多い体験とは言えないものだった……。15冊のなかで「おお……結構面白いじゃん」と思ったのは、わずかに2冊(鳥居みゆきの『余った傘はありません』と、加藤シゲアキのデビュー作『ピンクとグレー』)ぐらいなもので、ハズレを引く確率が高すぎだ。まったくオススメできる試みではない。小説を書いた芸能人のファンだから買って読む、くらいがちょうどいいのかもしれない。

芸能人小説を「端からくだらないもの」と斜に構えず、大真面目に読み込んだときに見えてくる「ホンモノの文学性」を提示したい、と始めた本連載だが、「芸能人“にしては”面白い」の域を越えるものは残念ながら見つけられなかった。また、振り返ってみて気がつくのは、取り上げた本の版元の「幻冬舎率」の高さだ。鳥居みゆき、加藤ミリヤ須藤元気、そして今回の中山美穂。四分の一以上が幻冬舎から出ている。幻冬舎には芸能人小説専門のセクションがあるんだろうか……? そしてどういうマーケットになっているのか? 正直、「芸能人が書いた」ってだけで売れているんですか? 気になるところだが、その謎を解明するに至らなかったことが心残りである。

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カエターノ・武野・コインブラ

80年代生まれ。福島県出身のライター。

@CaetanoTCoimbra