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泥臭いフェミニズム・メンズスタディーズとしての東村アキコ漫画 前編 ~誰が殺したヒモザイル~

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ヒモ生活の奨励

 さて、東村アキコ氏といえば、『ヒモザイル』だけでなく、現在漫画誌『Kiss』にて連載中の『東京タラレバ娘』(既刊4巻)も、「エイジズム」や「ミソジニー」などジェンダースタディーズ的観点から多くの批判があります。

 『東京タラレバ娘』は、東京の一等地で生活する、そこそこ高給取りだけど結婚できないオーバー30歳(アラサーとはあえて書きません)女性たちがヒロインです。彼女たちが「2020年のオリンピックを一人で見る、もしくは実家の家族と見るのは絶対に嫌」という思いから結婚を望むようになるも、恋愛は20代の時のように上手くいかないし、仕事も20代のような輝きがないという状況の中で、「それでも幸せになりたい」ともがく話で、『ヒモザイル』自体が、『東京タラレバ娘』の男性版ではないかと言われるくらいよく似た主題を持つ漫画です。

 それでは、賛否両論が成立し現在も人気漫画である『東京タラレバ娘』と、多数の批判によって休載に至った『ヒモザイル』の一番の相違はなんなのでしょうか?

 実録漫画である『ヒモザイル』と現実を元に創作したフィクションである『東京タラレバ娘』という違いはもちろんですが、私は、2作品の一番の相違は、『東京タラレバ娘』が、ミソジニーとウーマンリヴが同居したフェミニズムの物語であることに対して、『ヒモザイル』はミサンドリーとミソジニーとメンズリヴが同居したメンズスタディーズの物語であったことが、2作品の明暗をわけた一番の理由ではないかと考えています。

 『ヒモザイル』の、「金なし仕事なしモテないダサい、けど夢はある」男性が、高給取りだけど結婚できない女性たちの望むような容姿と能力を身につけ専業主夫となり、夢を叶える時間と経済的援助を得る。というストーリーは、「専業主婦は配偶者に経済的に依存している」「家事は無償労働である」という側面を強化して見せますし、そこにミソジニーがないとは言えません。同時に、冴えない(と作者が評する)男性に「お前はそのままじゃダメだ。変われ」と強要する作者の姿勢が傲慢であるとか、アシスタントの給与やキャリアアップを考えるのではなく「高収入女性と結婚すれば安月給でいいじゃん」とすすめるのは雇用主として正しくないとか、いくつもの批判要素を抱えた作品であることは間違いないでしょう。

 しかし私は、『ヒモザイル』がWEB読者の嫌悪感を煽った最大の要因は、「ヒモ男性の肯定」だったのではないかと見ました。

 金なし仕事なしモテないダサい、けど夢はある男性に対して、作者は「高給取りだけど結婚できない女性たちの弱み(結婚したいという思い)につけ込んで、自己実現したって良いんだよ」とメッセージを送ります。「夢を叶えるためには、正攻法以外にも手段はあるんだよ」ということです。アシスタント男性は特に女性との結婚や子育てを望んでいるわけではないのに、「夢を追いたい」から、女性を利用して打算で結婚する(作中では「結婚」に至るまでを描くことが出来ていませんが)。それを作者が奨励していることが、アレルギー反応を引き起こしたのではないでしょうか。

 次週は、【泥臭いフェミニズム・メンズスタディーズとしての東村アキコ漫画 後編 〜タラレバ娘がOKで、ヒモザイルがNGになったのはなぜか?〜】として、『東京タラレバ娘』の魅力と、ヒモザイルがNGになった理由をくわしく考察していきたいと思います。

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【MAPA】
マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー・アーカイヴプロジェクト

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柴田英里

現代美術作家、文筆家。彫刻史において蔑ろにされてきた装飾性と、彫刻身体の攪乱と拡張をメインテーマに活動しています。Book Newsサイトにて『ケンタッキー・フランケンシュタイン博士の戦闘美少女研究室』を不定期で連載中。好きな肉は牛と馬、好きなエナジードリンクはオロナミンCとレッドブルです。現在、様々なマイノリティーの為のアートイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」の映像・記録誌をつくるためにCAMPFIREにてクラウドファンディングを実施中。

@erishibata

「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー(MAPA)」