別々の高校に進んだ塚元くんとはその後、そのまま連絡が途絶えてしまったそうだ。大好きだった彼女を奪われたのだから当然会いたくもなかっただろう。しかし、それから一年後のある日、塚元くんが向井少年の自宅を訪れた。向井少年は玄関のドアをすぐに開けることはしなかった。ドア越しに塚元くんが「お前に謝りたいことがあって来たんだ……」と語り出した。そう、塚元くんは向井少年に謝りに来たのである。だが、一年経っても全然怒りが治まっていない向井少年は「何しに来たんだよ!」「お前がやったことは裏切りだぞ!」「最低だな、お前の顔なんて見たくもねぇよ!」と怒涛の罵声を浴びせてしまった。極めつきは「俺はいくら謝られても、死ぬまでお前を許すつもりはない!」。“激おこぷんぷん丸”どころではない剣幕で、青春ドラマみたいな激しい喧嘩シーンである。
だが、大人になった向井少年は、あの時、顔も合わせず謝罪も聞かずに塚元くんを追い返したことを後悔して、今回番組を通じて謝りたいと語った。「前みたいな(仲の良い)関係に戻るには、僕が謝るしか……」そう謝罪を決意した理由には、元カノのエリさんから知らされた新事実もあってのことだった。
スタッフが事前に取材したという元カノのエリさんのVTRを見る向井。首から胸元までで顔は見えないカメラアングルの映像の中でエリさんは当時のことを語り出した。向井少年と別れた理由としては、一緒に学校から帰る回数が少なくなったり、携帯メールのやりとりもあまり無く、これから高校も別々になるので不安であったようだ。“高校が別々になる不安”……、これは卒業間近によくある恋人たちの風景だな、たぶん。
そんな時期に悩みを相談する子がいたという。それが、当時同じ塾に通っていた塚元くんであった。向井は彼女の口から語られた真実に驚きを隠せない様子だった。結局、愛しの彼女は向井少年との恋愛に対する不安を親友の塚元くんに相談していたわけである。彼女と親友が仲良くなった理由は自分のふがいなさが生み出していたのだった。100%自分が被害者だと思っていた向井は「より(もっと塚元くんに)謝らなきゃ……」と反省していた。
塚元くんに謝罪をする待ち合わせ場所は、当時二人で遊んでいたという公園だった。思い出の地で12年ぶりに再会を果たす向井少年と元親友。BGMはZONEの「secret base~君がくれたもの~」(ソニー・ミュージックレコーズ)でガッツリ切なさを盛り上げる。照れくさそうに話し出す二人は、塚元くんの身長が伸びた話題で少し和んだ。絶交を決意したあの頃、自分より背の低かった親友は、時が経ち、いつしか自分の身長を越えていた。時間はあれから確実に流れていたのである。
緑の生い茂る公園のベンチに座り語り合う二人。当時を振り返りながらあの時、自宅に謝りに来た塚元くんを追い返してしまったことを「ごめんなさい」と立ち上がって深く頭を下げ謝った向井少年。塚元くんも向井少年に対して罪悪感がずっと心にあったそうだ。その思いを手紙に書いて来たという塚元くんが涙ながらにそれを読み上げた。「サトシ(向井)の大切な彼女(エリさん)を奪ってしまったこと」、そして今回初めて明かされた「彼女に僕とサトシが友人であるということを隠していたこと」という真実を誠実に謝っていた。初めてその新真実を知ってわだかまりの取れた向井少年と塚元くんは満面の笑みで握手をして、12年越しの仲直りができた。ほんと、良かったですね~。
結局、向井はずっと誤解をしていたのだった。元カノのエリさんは自分と塚元くんが親友であることを知っていたのに、付き合うという裏切り行為をしていたんだと。しかし、エリさんは二人が親友同士だということを知らずに塚元くんに恋愛相談を持ちかけ、彼の方を好きになってしまった。公園謝罪の後、向井はエリさんにも謝りに行くという“謝罪のおかわり”みたいになっていた。塚元くんへの謝罪が終わると、そのまま移動車に乗り込み元カノのエリさんの元へ。二人の思い出の場所だという水族館で12年ぶりに再会した。前半で映らなかったエリさんの顔もバッチリ映し出されたのだが、とってもかわいい女性だった。思わず「キレイになられて」とニヤける向井にエリさんは照れていた。
早速、「いろんなことを知らなかった」「本当にすいませんでした」と謝る向井。「大好きだった、だからこそ許せなかった憎しみが晴れていく……」と優しいナレーションが入る。エリさんもまた、向井に謝りたいとのことで書いてきた手紙を読み始めた。もう謝罪の連鎖がどうにも止まらない~! 中学卒業を迎え、高校で離れ離れになる不安な時期に向井少年が自分には全然メールしてくれないのに、他の女子とたくさんメールのやりとりをしているという噂を聞いて、それを鵜呑みにして別れを決意してしまったこと。あとからそれは誤解だとわかったけれど、もう後戻りできなかったこと。そして、そのメール話が嘘だと言った向井少年の言葉を信じることができなかったことを謝っていた。
また今回、番組スタッフから初めて聞かされたという、向井少年と塚元くんが親友であったという真実も当時知らなかったとはいえ、二人の仲を壊してしまったんだということで謝罪していた。向井も「(誤解して)勝手にいろいろ思っちゃっててさ、本当に申し訳ないなって」と謝って二人は笑顔になった。
向井にとっては元親友と元カノに同じ日にそれぞれの思い出の場所へ謝りに行って、同じ日にその二人から謝られるという何とも奇妙で忙しい一日であったであろう。12年に及んだ三角関係の復讐劇もこれにて一件落着となったわけである。しかし、あの頃、芽生えた向井少年のふつふつと煮えたぎった復讐心によってお笑い芸人“パンサー向井”が生まれたのは紛れもない事実である。彼女にフラれて、親友に裏切られなければ向井少年がお笑い芸人を目指すことはなかったかもしれない。
あの頃の悔しさが強力なバネとなって今では出待ちまでしてくれるたくさんのファンに応援して貰えているのだ。復讐心や悔しさっていうのは一見ネガティブに捉えられがちだが、結構、世の中っていうのはそういうネガティブな人たちがすごい頑張ってエネルギーを発することによって回っている部分があると思う。負のエネルギーが上昇気流に乗っかった時にすごいパワーが生まれるのかもしれない。なんて、バラエティ番組だというのにドキュメンタリー色が強すぎて、ちょっといろいろと思いにふけってしまうのであった。
■テレ川ビノ子 / テレビが大好き過ぎて、頼まれてもいないのに勝手にテレビを全般的に応援しています。見たいテレビが多過ぎて録画番組は基本「早見早聞き1.5倍速再生」です(アナログ時代は2倍速再生も可)。録画し過ぎてHDDの容量が常に足りなくなるのが悩みです。
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