
(C)柴田英里
前回、高校の吹奏楽部員たちを描いたアニメ等の作品『響け!ユーフォニアム』に関する議論を参照しながら、“男根のメタファー”について考えました。
武器や楽器を男根のメタファーとしてのみ解釈するのならば、非ファルス的な武器とはなんなのでしょう? 男根的でない武器は、あり得るのでしょうか。
そもそも、「男性=攻撃的/女性=博愛的」という二元論があるがゆえに、また、歴史的に兵士や戦争を主導した人物は圧倒的に男性が多いため、男性的なイメージを帯びていない武器というものは少ないのです。
では少ないながらも「女性的な武器」とはどういうものか? 生物兵器や毒薬、ハッキングなどは非ファルス的な武器(攻撃)だよなあ。とぼんやりと考えていました。
カトリーヌ・ド・メディシスやルクレツィア・ボルジア、ブランヴァリエ公爵夫人など、世界史には毒薬に詳しかったとされる女性や、女性毒殺犯がたくさん登場します。歴史においても現在においても、男性に比べて(プライベートな場面で)食べものを扱うことが多い女性は、怪しまれることなく食べ物に毒物を混入することが比較的容易であることや、刃物や鈍器に比べて返り討ちにあう可能性が少ないので、体格の違いなどのハンディがなく犯行に及べるなどの利点が多かったのでしょう。毒薬は、女性的な武器(攻撃)かもしれません。
対して、対象そのものを書き換えてしまうハッキングという武器(攻撃)は、ジュディス・バトラーが『ジェンダー・トラブル――フェミニズムとアイデンティティの攪乱』(竹村和子訳、青土社、1999年)で展開した主張のような、ドラァグ行為などによって規範を攪乱することによって(※)、二元論や性別役割分担といった性規範そのものを読み替えてしまおうという試みにも近く、非常にクィア的な武器(攻撃)かもしれません。
(※)バトラーは、「ゲイ/レズビアンの文化のなかの言説」による「(異性愛の)パロディ的な再占有(リアプロプリエーション)」は、「セックスのカテゴリーや、同性愛のアイデンティティに対するもともとの侮蔑的なカテゴリーを配備しなおし、不安定にさせるものである」と主張する。