
Photo by Maegan Tintari from Flickr
世にはびこる恋愛指南本。その多くに必ずと言っていいほど登場するのが、「男性が守ってあげたくなる女子になるため」の言動や仕草、ファッションなどの紹介です。要するに、「女は男に守ってもらいましょう」と提唱し、そのために戦略的に動くことを説いているのです。
ゆっくりと話す、ぽろっと弱音を吐く、例え知っていることであっても分からないフリをして教えてもらう、不満を打ち明けるにしても男のプライドを立てて、何もしていないようで手が込んでいる男性の好物「ナチュラルメイク」、風に揺れるスカート、などなど。こんなふうに「作られた女性らしさを演じないとモテない」だなんて警鐘を鳴らされ続けることに、いい加減、うんざりしませんか?
男性に「守りたい!」と思わせるテクニックをさらりとやってのける女子はそれでけっこうです。こうした振る舞いでその女性の願望を近道で叶えることができるならば合理的でしょう。
しかし、偽った自分を見せることに苦痛を感じる素直な人も多くいます。それに、「守りたい、と思わせるためのモテテク」を駆使して好かれたとて、上辺だけしか見てもらえず(上辺しか見せていないので当然ですが)、のちにむなしさが襲ってきそうです。あるいは、偽りない自分の本音を見せることができず、交際や結婚に発展してから「こんなはずじゃなかった!」と後悔するのではないでしょうか。もうひとつ、モテテクに食いついてきた男性に対して、彼を魅力的だと思い続けていられるかどうか、も微妙なところです。
とはいっても、運動や習い事を始める際、道具やウェアから揃え、とりあえず見た目から入って気分を高めるという人もいます。同様に、まずは表面的なモテテクを取り入れて“モテ慣れ”するべきという考え方もあります。
もちろん、見かけを整えることや、人付き合いのマナーは重要です。しかし、無理して「守ってもらいたい女子」を演じる必要はあるのでしょうか。
で、何から守ってもらいたいの?
そもそも疑問なのが、「守ってあげたくなる」「守ってもらいたい」とは何ぞやということです。
現代の日本は世界各国の中でもかなり治安の良い地域だといわれています。もちろん交通事故や通り魔事件、痴情のもつれや家族内での刃傷沙汰は今も昔もありますが、多くの人々は基本的に「安全」を享受していると言っていいでしょう。日常的に命の危機にさらされ、それを意識しているのは、暴力が横行するコミュニティ内にいる人、何らかの怪しい団体と関わってしまった人、工事現場や工場といった危険と隣り合わせの仕事に従事する人などではないでしょうか。
もちろん、だからといって100%の安心・安全は保障されるものではなく、痴漢や強制わいせつなどの事件報道も途切れることがありません。しかし、女性が痴漢やストーカーなど変質者に悩んでいる場合でも、恋人や配偶者が毎日送り迎えをしてガードマンになってくれるかというと、現実的には厳しいです。加害を許さない社会づくりが急務ですが、個人の自衛としては防犯グッズを携帯したり、自分で何か護身術を身に付けたりした方が手っ取り早いです。
筆者が「女性は何から守ってほしいのか?」を知るべく20~30代女性たちに周辺調査をしてみたところ、これと言った意見は集められませんでした。改めて「何から?」と聞かれると、みんな答えられないようです。
では、「守られたい願望」を持つ女性たちのいう「守ってもらいたい」が何を示すのかというと、「命の危険から身を守ってほしい」というボディガード的な護衛ではなくて、男性に「俺が守ってあげなきゃ=この子と結婚しよう」と思ってもらうこと(そしてプロポーズ)を求めているわけです。まあ、愛され指南本が軒並み提唱しているモテテクですから、そこに帰結するのは当然ですね。結婚をしたい、そのためには男性が守ってあげたくなるような女性にならねば、と。
日本では今もなお男女間の賃金格差が解消されておらず、男女の平均年収額が倍も違います。国税庁発表の「民間給与実態調査統計(平成26年分)」によると、給与所得者のうち、男性の平均年収514万円に対して、女性は272万円でした。結婚をして、経済的に「守って」もらいたいと思う女性は少なくないかもしれません。
とすると、高所得の女性、たとえば年収500万円以上を自力で稼ぐような女性であれば、男性に守ってほしいと思うことはないのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。この「男は守りたくなる女を愛する/女は守ってくれる男が欲しい」モンダイは、もっとずっと根が深いです。