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有名精神科医、占いにすがる。「占いとは、当たるとは何か」を掘り下げた結果

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信じるも信じないも…。Photo by Valerie Everett from Flickr

 前世やオーラ、四柱推命、人相手相、カード、霊視、コーヒー、骨etc. スピリチュアル物件の中でも、〈占い〉はひときわバリエーション豊富です。対面で厳かに行われるものだけでなく、ネットでポチリと無料鑑定できるサービスもたくさん、さらには「手相見てあげる~」なんてボディタッチの小道具として利用されるシーンもあり、いかに私たちの生活の中に根付いているか、また興味を持つ人が多いのかがよく分かります。

当連載の担当編集Mはつい先日「今スタバなんですけど、隣の女子たちがこんな話をしてて、気が散る……!」と、メッセンジャーで実況中継してくれました。編集Mの隣に座っていたのは、リア充風味の女子大生と思われる3人組とのこと。

編集M:今、真横で〈フラワーエッセンス〉についてのトークが始まりました。女子A「花のパワーで、心のクセをとってくれるんだって」女子B「え~、やらないと!」女子A「オーガニックっていうと、スピリチュアルなイメージだけど、そうじゃなくて~、花の香りと波動とで、助けてもらうの。波動にむかって香りをつける……オーラに香りをつける感じかな。いま朝と夜やってるの~♪ 効いてるかどうかはわかんないけどっ」……ちなみにコスメキッチンが御用達らしいです。

自分:ライトでオシャレな白魔女系に見せかけ、〈波動〉とか言っているあたりはそこそこディープっすね。

編集M:さらにお告げもあるそうです。女子A「私はスピじゃないけど、スピな先輩と合コンにいったら、先輩が何かからの声を受け取ったみたいで『あなた、今日出会った人と絶対に付き合うわよ』って言われたけど、4対4の合コンなのに男2人が欠席で~。来た男もショボくって、ぜんぜん出会えなかった! 先輩のお告げ、なんなの~?」って、あなたがなんなのですよ。しかも、いやいや、それこそスピですよという。

自分:〈お告げ〉を真正面から受け止めちゃってる女子大生、大丈夫か!

編集M:何かこういう子たち、マルチとかにもすぐ騙されちゃいそうですよね……。

(以下延々と雑談は続く)

スピとは真逆のはずの科学者が

 次第にふたりでお嬢さん方の行く末を心配してしまいましたが、専門知識も持ちあわせた霊能者ではなく単なる〈バイトの先輩〉の宣託を一瞬とはいえ受け入れてしまうのですから、占いって市民権得てるわあ(占いというと生年月日や手相など、個人情報から統計学で答えを導き出すものが最もポピュラーでしょうが、こういった霊感で宣託を告げるイタコ的なものも、一種の占いと言えるでしょう)。

 さてすっかり前置きが長くなってしまいましたが、巷のそんな軽~い〈お告げ〉は間違ってもこの人には告げられまい……と尻込みしてしまうような記録がありました。圧倒的な暗さと重さで、占いという謎物件を体験した『鬱屈精神科医、占いにすがる』(春日武彦著・太田出版)です。

 著者は文筆家でもある、有名精神科医。医師は科学者ですから、占い師とは真逆の立場にいると言っていいでしょう。それだけでなくシニカルな人柄も有名であり、春日医師の著書の中でも特に、狂気観察を得意とする作家や漫画家と一緒に、陰鬱な事件や現象を独自の視点でバッサバッサ斬り捨てる対談本は、とても爽快。

 そんなセンセイが、なぜ占いなんかに~(涙)と動揺させるのが、このタイトルの狙いなのでしょうが、私ももちろんまんまと引っかかりました。だって! あの! 春日武彦が! 占いって!

 どんなに冷静沈着頭脳明晰な人にも、地雷は埋まっているもので、著者の場合はある日「最近は本が売れてないですね」と若手編集者に言われたことがジワジワ心を蝕み、不全感に陥ったと言います。

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山田ノジル

自然派、エコ、オーガニック、ホリスティック、○○セラピー、お話会。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のないトンデモ健康法をウォッチング中。当サイトmessyの連載「スピリチュアル百鬼夜行」を元にした書籍を、来春発行予定。

twitter:@YamadaNojiru

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