インタビュー

「本当は結婚したくないのだ症候群」とはどういうことなのか?/北条かやさん

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北条かやさん

 婚姻率が低下している現代、出生率の低さも絡めて「早く結婚して子供を産め!」と社会全体から恫喝されているような、肩身の狭い思いの30~40代女性は少なくありません。20代前後までは「大きくなったら自分も当たり前に結婚するんだろう」と漠然とした未来を描いていたにしても、いざ「大きく」なってみると戸惑いの連続です。第一、自分が本当に結婚をしたいかどうかも分からない。

 そんな女性の複雑な心境に迫ろうと試みた書籍『本当は結婚したくないのだ症候群』(青春出版社)を、北条かやさんが上梓しました。現代男女の結婚観や恋愛観、そして日本の社会制度にも踏み込み、北条さんの分析を伺いました。

みんながしてきたことだから…

――今回『本当は~』のタイトルだけ見たときに、そういえば女性向けファッション誌や恋愛本の多くは、その問いをすっ飛ばしているなあと気が付きました。読者が「結婚したい」前提で書かれている企画が実に多い。でも読者である女性が、本当に結婚したいのかな? と自問自答する段階が本当は必要なんじゃないかなと。実際、漠然とした「結婚したい」気持ちは多くの女性が抱いているでしょうし、恋愛するからには結婚を見据えて……と考えがちになるのがアラサーですが、そもそもなぜ「結婚したい」のか。北条さんはどうお考えですか?

北条かやさん(以下、北条) みんなが結婚するから、自分もしたほうがいいのかな、ってことだと思います。みんなっていうのは、友達や先輩後輩とかだけじゃなくて、親とかおじいちゃんおばあちゃんがみんな、結婚してきたという事実があるじゃないですか。1898(明治31)年に明治民法が施行されて、すべての人が「家」に属して戸主に従う家父長制が行き渡り、戦後民法改正による家制度の解体を経てもまだ、戸籍というシステムが残っている現代。ここまでの120年あまりで、みんなが結婚するのが常識になりました。歴史としてはそんなに長くないのですが、三世代も続けばそれは慣習として固定化してしまいます。自分の母親も、おばあちゃんも、ひいおばあちゃんも、結婚して子供を産んでいる。だから自分も結婚するだろう、したほうがいいんだ、と考えている女性は非常に多いという印象です。

――70年代初頭の生涯未婚率は男女共に5%程度で、95%は一度は結婚した経験がある、というデータが本書で紹介されていました。その「一度は結婚した経験がある」人々の子にあたる、今30代前後の女性にとって、結婚するのは当たり前という感覚になっているかもしれません。

北条 そうですね。一番身近なロールモデルは家族なので。

――もう少し若い世代、たとえば90年代生まれの男女は現在10代後半~20代ですが、また価値観が変わってくるのでしょうか?

北条 どうでしょうね。今、二十歳くらいの若さで子どもを産んでいるような若者たち、マイルドヤンキーなどと呼ばれる層について言うと、彼らはジェンダーロールが内面化していて、ある意味保守的だと思います。性役割の面でもそうですが、若い世代だからといってリベラルなわけではないし、古い慣習から逃れられるわけでもありません。

新しい家族観を提示してくれたものとして私が強烈に覚えているのが、2002年に放送された月9ドラマなんですけど。『人にやさしく』(フジテレビ系)ってご存知ですか? SMAP香取慎吾さんが主演でSOPHIA松岡充さん、加藤浩次さんと男3人で小学生の男児を育てる内容でした。既存の家族制度から離れた人たちの、家族としてのあり方を描いていて、こういう家族構成があっても良いんだって知ることができました。

そういうエンタメコンテンツ経由のアプローチでもいいので、若い世代に事実婚も含め多様なかたちのパートナーシップが認知され、広がればいいと思います。じゃないと絶対、未婚率が上がりますよ。

――未婚率が上がる、と北条さんが考える根拠は何ですか?

北条 結婚というパートナーシップ制度の「鋳型」が固定化した状態のまま、「結婚しましょう」と推奨しても、人はそれぞれ違う生き物ですから無理に「鋳型」にはまることは出来ません。抽象的ですが、今は結婚というひとつの鋳型におさまることを目指して、みんなが無理ゲーをしているように見えます。理想の結婚相手を思い描いたときに、男性は家庭的な女性を、女性は頼りがいのある男性を求めて、「この人は違う、あの人も違う、結婚相手には出来ないな」と減点的な見方をしてしまいがちです。

男性が大黒柱になり家計を支える立場になるのが、これまで常識的な家庭のありかたでしたが、不景気が当たり前になった今の時代に他人を養うだけの収入を稼げる男性は少数です。時代の変化に個々の価値観の変化が追いついていないから、男性側は「自分には家族を養うのは無理だな」と結婚をあきらめてしまうし、女性側が低収入の男性を視界から除外して「結婚出来そうな相手がいない」と嘆くことになります。

この価値観の更新が必要なのですが、なかなか進んでいかないのが現状。

――他方、「結婚したくない」人たちの存在も北条さんは書いています。

北条 意識的に非婚を選択することも、社会的に認められていい。先ほど「女性向け本は、読者が結婚したい前提で書かれているものばかり」とおっしゃいましたが、そもそも「結婚したくない人」はこの社会で「見えない存在」になっています。

「出来ればしたい」人は見えますが、「したくない」人は婚活イベントにも行きませんし婚活サイト登録もしませんから、可視化されにくいのです。したい人たちはスポットライトを当てられて、自治体が婚活イベントやお見合い事業に乗り出して世話を焼こうとしていますが、こうまで結婚するのが当たり前とみなされている社会では「したくない」人はとても生きにくいです。

まして、一生結婚をせずに100年近く生きていくことなど、社会制度上、想定されていません。現在の日本は、結婚したい人のための社会、システムが多いなと思うんです。

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姫野ケイ

ライター。1987年生まれの宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。学生時代は出版社でアルバイトをしつつ、ヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れる。猫とお酒を与えていれば喜ぶ。

@keichinchan