インタビュー

「本当は結婚したくないのだ症候群」とはどういうことなのか?/北条かやさん

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――「結婚しないの?」という問いかけは、男女どちらにしたとしてもセクハラにあたると思いますが、その質問をされたとき、男性はどう思うものなのでしょうか。

北条 男性に対するセクハラは、まだまだ問題意識が浅く、浸透していないと思います。「からかい」の範疇におさめられてしまう。男ならばそんな戯言をいちいち気にしちゃいけない、という圧力もあって、「これくらいのからかいでくよくよするな」と、男らしさをテストする文化があるのではないでしょうか。ハラスメントを受けて傷つく男性は、被害者であるにもかかわらず(被害者であるからこそ)、弱い男認定されてしまい、「女々しい」とみなされます。すると、ホモソーシャリティのコミュニティから外されてしまいます。

ホモソーシャリティは欧米の社会学者、イヴ・セジウィックが提唱した「男同士の絆」の概念ですが、男同士の集団で、「お前は男らしい」と認められてこそ、男性は男性になれる、という仕組みがあります。そのために女性を他者化する。そして女性的な男性も他者化され、組織からはじかれてしまうのです。だから、男性が「結婚しないの?」とセクハラ質問を受けるとき、女性とは別の苦悩があると思います。

――北条さん自身は結婚願望はありますか?

北条 私は警戒心が強いのか、なかなか自分から誰かを好きになることがありません。人に恋愛感情を抱きにくいんですよ。今は独身でもいいかなと思っていますが、ご縁があるとしたら事実婚がいいですね。

「誰かに理解され、導かれたい気持ち」は依存心なのか?

 以前、筆者は「一体何に怯えてるの? 『守られたい願望』女子のホンネとプリンセスの女らしさ」という記事を執筆しました。そこで出てきた「シンデレラコンプレックス」と、北条さんの『本当は~』で頻出する「王子様」というワードには、共通点があるような気がします。

――シンデレラコンプレックスという概念を提唱したコレット・ダウリングいわく、「多くの妻は家庭を安全地帯と考え、夫を選ぶときに自分を守る王子様、彼女らが責任を取らないですむ保護者を求めている」。1981年当時の感覚ですが、35年後の現在から見ると……。

北条 「一生パートナーや子どもを持たず一人」という人生設計は異端で、<未婚のままだとどんどんしんどくなるのではないか><結婚をすると今より楽になれるのではないか>という幻想があり、結婚したい気分としたくない気分がシーソー状態になっている女性もいるでしょう。

『本当は結婚したくないのだ症候群』にも書きましたが、社会から認められたい、安心したいという思いから、漠然とした結婚願望を持つ女性はたくさんいる。でも、結婚生活がイコール安心なんて、イメージでしかないですよね。自分の両親だって、そんな幸せそうな表情で安らげる家庭を運営していたかというと、多くの人はそうでもないと思います。でもなぜか私たちの内面に、素晴らしい家族像というイメージが植え付けられている。

――「結婚=安心」はあくまでイメージであって、それを実現させたくば各家庭の努力が必要なわけですよね。また、結婚じゃなくても「安心」を手に入れることはできる。

北条 今は、ほとんどの女性が学生生活の後に社会で働きますよね。でも男女問わず、働いていると「いつまでここで働いてられるのかな」「もう辞めたほうがいいのかな」等、不安を抱えるタイミングがあります。女性は肉体的に出産に適した時期というものがあるので、それを視野に入れているとなおさらです。「結婚に逃げたくなる」という声はよく聞きます。でも……経済的安定がほしいなら自らが稼げる職業を目指せばいいですし、今の職場がしんどくて続けられそうにないなら転職するも良し、あるいは少し休むも良しです。「働かないという選択肢」はイコール安心ではありません。

男性は、男らしさという価値観の中に「社会での働きぶり」が含まれていてこれはこれで問題なのですが、女性は良くも悪くも、いろんなキャリアデザインがあります。でも現状がつらくて不安が募ると「結婚さえすればラクになれる」というイメージにとらわれ、とりあえずの結婚を目指して婚活に走るアラサー、アラフォー女性も出現してしまいます。

――『本当は~』の第三章に、婚活に走る女性達が「王子様」を夢見ているとありますが、具体的にそれがどんな男性を示すのかわかりませんでした。どういった意図で書かれているのですか?

北条 外見がイケメンだとか、お金持ちで経済的に守ってくれる男性というわけではないんですよね。そして一人ひとりの女性ごとに、「王子様」のイメージは異なると思います。ものすごく簡単に言ってしまえば、「自分を導いてくれる人」が王子様です。結婚を「逃げ」にしてしまう女性だけではなく、依存願望そのものがシンデレラコンプレックスです。

――恋愛や結婚の局面に限らず、ですか?

北条 そうです。女性の方が男性よりも昇進意欲が低いというデータがあるのですが、私が一般の会社員として働く一人ひとりの女性に話を聞いていったところ、実は彼女たちが「自分を導いてくれる上司がいたら昇進できるのに」と思っていることがわかりました。まず、自信がないのです。自己評価が実際よりも低くて、承認が欲しくて、「自分に眠っている才能を開花させて言語化してくれる人がいてほしい」とひそかに望んでいるという傾向が、一部の女性たちの間で見えてきました。

もちろん良い上司にマネジメントしてほしい、導いてほしい、という希望は男女関係なく誰でも持つものですし、適切なマネージャーが職場には必要だと思います。でも女性に特有の自信のなさが、根深い王子様願望と通じているように思います。

――優秀な女性は多いと思いますが、なぜ自信が持てないのでしょう?

北条 男女平等の教育を受けて育っている世代でも、学校教育の場で、ひとつひとつは小さなことかもしれませんが、男女のジェンダーによる分岐が自然におこなわれているように思います。私がある現場の方からうかがった話ですが、思春期頃から学級委員長に立候補する女子があからさまに減少するそうで、自らがリーダー格になるのではなく、男性を支える補佐役になっていくと。あくまで傾向というだけで全員がそうじゃないですが、「男性を支えてあげて、それを感謝される」というのが、女性の性役割として長く受け継がれてきたことを踏まえると、興味深いことだなと。

――支える役にまわっても、感謝されることなく後ろ足で蹴り上げられるような事態ってあると思うんですよね。

北条 社会に出ればそうですよね。働くようになっても、受動的な態度で「私を導いてほしい」などと言っていては、自分も周囲も困ります。私自身、新卒で会社員をやっていた頃、同僚女性たちの働き方を近くで見ていて、ツラそうだと感じる場面は多々ありました。しかしずっと男性主体の組織だった企業で、女性社員をどう指導していいかわからずに上司側が混乱している側面もあります。フリーライターになってから企業のシンポジウムを取材する機会があるのですが、「女性社員の育て方が分からない」と嘆く上司はうじゃうじゃいるんですよ。「叱れない。叱ったらすぐ折れてしまうのではないか」と懸念している上司もいました、これは女性です。

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姫野ケイ

ライター。1987年生まれの宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。学生時代は出版社でアルバイトをしつつ、ヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れる。猫とお酒を与えていれば喜ぶ。

@keichinchan