自信に満ちあふれた無職
僕「なんなんだよ!」
ミョンちゃん「私に会わないで何してるの」
僕「小説書いてるんだよ。悪いかよ? 働かないで親のスネかじってエアコンのきいた部屋で昼夜逆転しながら小説書いてなんか悪いかよ?」
得意のヤケクソ開き直りです。僕はその間も電話しながらひたすら小説を書いていました。小説の中の無職と現実の僕はどんどんシンクロしていきます。「あー、じゃあ私が京都行こうかな」とミョンちゃんは言ったので、止めました。
ミョンちゃん「なんか色んな人とデートしてみたんだけど、みんなちゃんと自信に満ちあふれてるんだよ。でその度に、なんでこのグイグイ来てる奴が奥山くんじゃなくて別の男なんだろう、って思うわけ、無職とかさ、そんなことどうでもいいから、イニシアチブとって『おいお前、黙ってオレについて来いよ』って言ってくれたらな」
イニシアチブを取ってぐいぐい引っ張っていく自信に満ち溢れた無職の元カレ、というキャラクターを想像しました。相当ヤバい奴だと思った。男もヤバければ、そいつについていこうとする女も大概ヤバい。
僕「あのな。僕は働いてないの。会う資格ないの。もう人生どうでもいいの。死ぬから大丈夫。問題なし。バッチOK。何故ならこれが僕の昔からの夢だったから。作家志望で作家になれなくて無職で引きこもりでどうしょうもなくて僕はダメだって言ってる大人に憧れてたんだ。だから大丈夫万事解決! 今のこれが僕の理想型にして究極の完成形態なんだ!」
そこまで言って僕は電話を切りました。小説に戻りました。小説の中の無職はいつの間にか殺人鬼になってどんどん人を殺していきました。こんなんでいいんだろうか、と僕は疑問に思いながらも、とにかくやたらめったら書き散らしました。
その間もミョンちゃんは二日に一度くらいの頻度で、「今日髪切った」「服買った」「ネイルした」「今お風呂入ってる」と話しかけてきたり写真を送ってきたりで、僕は適当に相づちを打ちながら小説を書きました。
それから深夜に散歩しました。当てもなく一時間以上、足が棒になるまで足を動かしました。
人生どうすればいいのかわからない。人生どうすればいいのかわからない。
一人言をぶつぶつつぶやきながら歩いていたら、道ですれ違った人に気味悪がられました。それも当然だと思いました。これが小説なら刺し殺しているところですが、僕は現実には常識感覚溢れる一介の気弱な無職なので、ビクビク背を丸めてすれ違いました。
僕は冷たい人間なんでしょうか。
ミョンちゃんは久しぶりに日本に、東京に戻ってきていて、まぁ、会いに行こうと思えば行けて、今会いに行かなかったら半年以上会えないんだけど、どうしても会いに行く気になれないのは何故なのでしょうか。
夜中寝ぼけていたら携帯が震えました。ミョンちゃんかと思って確認したら、婚活サイトからのメッセージでした。
「できれば男性からデートに誘いましょう」
婚活サイトまで! 僕のことをバカにしてる! 世の中の人みんなが僕のことバカにしている!
なんか猛烈に腹がたってきました。この勢いでガツンと言ってやろうと思いました。今日こそはガツンと言ってやろうと思いました。深夜だろうと寝ていようと関係ありません。僕はミョンちゃんに電話しました
僕「お前は、僕のこと、好きだろ!?」
シーン、と沈黙が流れました。
ミョンちゃん「はいはい。じゃあ、はやく小説家になってちゃんと売れてちゃんとプロポーズしてね、奥山先生」
僕「おう、任せとけ」
もう寝るから、と電話を切られてしまいました。……任せとけ、じゃねーんだよ! アホなのか、僕は。
布団を被ってうずくまりました。恥のあまり死にたくなった。またやってしまった、と思いました。