女の人が怖い
いつも僕は、空回りばっかりしています。
……そう、例えば初体験のときもそうでした。
当時付き合っていた彼女と、サークルの飲み会から抜け出して夜の四条を歩いていたんです。僕たちは同じ映画サークルに所属していました。他の女の子とデートしてるときにトイレでゲロ吐きながら電話をかけて、その女の子に告白して、OKをもらい、付き合うことになったというのが馴れ初めでした。ゲロ吐くまで酒でも飲まないと告白なんてやってられなかったんです。
さて、僕たちはとぼとぼと夜の繁華街を歩いていました。付き合って二週間です。僕の頭の中はヤることで一杯でした。なんとなく、さりげなく、いい感じで…………ホテルに行けたら……いや絶対行こう、と思っていました。僕は彼女の手を引いて歩き続けました。
ところが、です。
普段何の気なしに歩いてたときには嫌なくらいに目についたラブホテルの看板が、何故かそのときさっぱり見あたらなかったのです。いくら地方都市といっても京都一の繁華街です。ラブホの一軒や二軒あるハズです。なのに、探せど探せど見つからない。
僕たちは一時間歩きました。見つからない。
ふと遠くに看板が目につきました。
「ホテル チャペルクリスマスまで 10分」
助かった、と思いました。
ところが、後日知ることになる事実なのですが、その看板、実は車で10分、って書いてあったんですね。それを僕は見落として、徒歩10分だと勘違いしました。
あれ、おかしいな、そろそろ見えてくるハズなんだけどな、とか言ってるうちに、僕らは人けのない真っ暗な道をどんどん迷い込んで行きました。スマホとか地図アプリとかまだなかった時代です。凄いんですよ。僕、彼女の手をグイグイ引っ張ってトータル三時間歩き続けたんです。そしてついに彼女がブチギレました。
「ふざけんな、カス!」
鬼かと思った。マジで超怖かった。でも今から思えば、よく三時間も我慢したな、偉いな、と思います。ノーベル我慢賞を授与したい。
空回りして空回りして凄い回転していくんです。このエネルギーで日本の電力問題、解決出来るんじゃないかってくらいです。
あれは、なんなんでしょうか? そういうとき、僕の脳内は完全にスパークしています。何か独特の熱狂にとらわれて、殆どトランス状態、邪神が憑依したかのように訳の分からないことをしているんです。そして我に返ったときには、酷いことになっているんです。
どうにかしたい。でも出来ない。
思えばミョンちゃんに対しても、僕はこれまで空回りの連続です。今まで縁切られなかったのが不思議なくらいです。
空回りしないためにはどうしたらいいでしょうか? ここぞというときにアサッテの方向に向かい出すこの癖をどうにかしたいんです。
真面目に言うと、僕という人間はいつも何かどこかピントがズレていて、何か人生の真実みたいなものを、いつもちゃんと捉えられないのです。いつも芯がずれているんです。ちゃんと、出来ないんです。
いや……よく考えてみれば、これはまるで僕の人生そのものだという気がしてきました。歯車が全く噛み合ってない、今もいつもずっと現在進行形で僕は空回りし続けているのです。それともここまで来たら、このまま空回りし続けるべきなのでしょうか? そしたらどこかへ行けるでしょうか。……ここまで、ってどこまで来たのかさっぱりわからないし、どこに行きたいのかもわからないのですが。
でも、僕は好きで空回りしているのかもしれません。薄々、それには実は気がついていました。だって、空回りしている間は、何かと誰かと真面目に向き合うことを避けていられるからです。シリアスをコメディに、変えてしまえるからです。
でも……それでいいのか? と思います。それでいいんだよ、ともう一人の僕がつぶやきます。
何故なら、人生の真実は虚無だからです。
空回りするのをやめるとき……多分それは僕が、死ぬ日だからです。
それでも最近、ふと思います。
だとしても、もう、僕は空回りをやめるべきなのかもしれない。
そんなことを考えます。
明け方に、空が白み始めるころ、僕はそう思ったりします。