私たちは翌日東京に戻ってからも、彼らと頻繁に連絡を取り合うようになった。彼らの地方公演スケジュールが終わってからは、A君から何度も「また飲もう」と電話があった。要は、あの夜で味をしめたわけだ。
私は旅先の思い出にしたかったので断り続けていた。でもあまりにも誘いがしつこかったことと、高級クラブのホステスとして年配のオジサマとしか会わない枯れた日々に私自身うんざりしていたタイミングが重なり、「目の保養~」なんて軽い気持ちで、A君と合コンを開いた。これが本当~~の悲劇の幕開けだった。
レイプ未遂と泥棒
その合コンは本当に滅茶苦茶。イケメン俳優たちは「山手線ゲーム!! お題は俺が最近好きな女優の名前~!!」という、女の子潰しゲームを始めて、負けたらテキーラや一気を強要させる。女の子側が絶対に負けるので、お酒が弱い女の子から次々に潰れていったわ。私も部屋を出て吐きに行った。部屋に戻ろうとトイレを出ると、いつの間にかトイレの外で合コンメンバーのB君が待機していた。強い力で手を引かれ、別の個室で押し倒されて口の中に舌を入れられた。
B君はイケメンだけど未成年の若造で、さすがに抱かれたい男のタイプではなかったから、思いっきり暴れてやったわ。なんとか跳ね除けて元の部屋に戻ると、なんと10人いたはずの部屋に潰れた女の子2人しか残されていなかった。誰が持ち帰られたかはわからなったけど、男どもは全員会計も払わず出て行っていたのだ。
唖然とする私に追い打ちをかけたのは、私の財布の中に当時の一カ月分の給料が入っていたはずなのに、ほとんど空っぽの状態になっていたこと。完全に抜き取られた。大金を持ち歩いていたことも酔っ払ってバッグを開けっ放しにしていた私も悪いけど、やられたわ……。
B君は残された4人の中で自分が一番若いのをいいことに、「後で先輩たちに清算させるから払っといて」と、自分の分の金額だけ置いてそそくさ帰っていった。結局、私含めた残りの3人の女子で合コン費用を被った。どんなに屈辱だったことか。
ファンだったら飲み代くらい喜んで払うんでしょうけど、私はファンでもなければしつこく合コンしようと誘ってきたから乗ったのにこの仕打ち。しかもイケメンを集めてくれると言うから、女子側もグラビアやレースクイーンをしている容姿端麗な美女ばかり集めたのに。感謝の気持ちも見栄もないのかしら。
どこまでもヒモ体質
そんな事件の後、私の勤めるクラブに飲みに来たことをきっかけに、仲良くなった俳優がいる。彼に話を聞いたところ、Zのメンバーに支払われる給料は相当安いらしい。
いくら舞台でキャーキャー言われても、稽古の時間は給料が発生しないし、人数が多くいればいるだけ、割ったぶんのギャラになる。だから、お金持ちのファンに家賃や生活費を払ってもらったり洋服を買ってもらったりしている役者も少なくない。「これを買ってくれたらデートしてあげる」と多額のアクセサリーや時計を要求しても、ファンは嬉々として貢いでしまう。まだ若い役者なら、感覚が狂って当然かもしれない。
そんな話をしてくれた俳優には、実はゲイのオジサマのパトロンがついている。ゲイではない彼にとってはパトロンと会うことは苦痛以外の何ものでもないはずだが、身体を提供する代わりに生活費全ての面倒を見てもらっている。
夢を持ち上京したはいいが、稽古やオーディションに行かなければ良い仕事のチャンスは掴めない。ギャラの安い仕事でも台本を覚えなければならない。時間がない。でも余裕のある暮らしがしたい。そんなとき助けてくれる人が周りにいるなら、それを使わない手はないだろう。役者に限らず、アイドルやミュージシャンや芸人だって、実家暮らしや裕福な家庭でもない限りファンやパトロンに甘えないとやっていけないでしょうね。夢が現実になるまでの道のりは険しい。AKB48やグラビアの女の子にパトロンや枕営業などの黒い噂は絶えないけど、男性も変わらないということだ。女の子たちに夢を売る役者も、こうやってのし上がってきた。
好きな人に頼られていること自体が嬉しいと思ってしまう女なんてたくさんいる。愛情表現でお金を出す女なんてたくさんいる。そして一度出したら何度でも出す。ホストにハマる女性の心理のように、使命感が生まれてきたりする。
今現在のA君は彼女が出来て、その子のために他の女たちから金を貢がせている。女性側がそんなにダメージのない金額から始めて、徐々に金額を引き上げていると豪語していた。女が「都合のいい関係」としてでも繋がっていられることで幸せなら、その関係性も否定はしない。しかし大抵は女が本気になってしまい、尽くすことで自分が彼女になれるのではないかと淡い期待を抱きトラブルを起こす。女がストーカー化したり、妊娠して結婚を迫るなどをして、事務所に反省文を書かせられた役者もいる。トラブルを起こさない自信があるというA君は、いっそ役者を辞めて宝石商人にでもなればいいのに。金持ちのオジサマから貢がせるならともかく、若い女性をターゲットにしているんだから、面倒くさくならないわけがないわ。
つまり、Zのイケメン俳優たちは女に金を出させることを日常茶飯事としているので、合コン事件のようなことが起こった。俺とセックスできるのだから嫌がるわけがない……というB君の上から目線からレイプ未遂も起こった。普段からチヤホヤされているせいね。追っかけなんてしたことがない一般女性には、実に迷惑な話である。ファン以外にもそんな扱いしていたら、事務所どころか警察に訴える女も後を絶たなくなってくるでしょうよ。
最近、彼らに金を出すことを惜しまなかったという、元追っかけの女に話を聞くことができた。
「レベルの低い男性に奢ってもらうくらいなら、月にいくらかけてでもイケメンに遊んでもらいたい。それが好きな俳優なら尚更嬉しいし自分のステータスになる。そのために風俗に落ちたけど、とにかく貢ぎ女であっても私が幸せなんだから満足なの」
金を出しても心が手に入らない。諦めきれなくて更に金を出す。こんな素敵な人のそばにいられる、という自尊心だけが彼女を支えているように見えた。彼女は言う。
「芸能界なんて一部を除いたらヒモばっかりだよ、きっと」
仕事への夢を見ている人間がたくさんいるから、何かが飛びぬけていないとすぐに消えてしまう。入れ替わりが激しく比較され目移りされて保たれている世界。彼らの中で業界に残れる人物は一握りだ。
■アスモデウス蜜柑/ 好奇心旺盛な自他共に認める色欲の女帝。長年高級クラブに在籍し、様々な人脈を得る。飲み会を頻繁に企画し、様々な男女の掛け橋になり人間観察をするのが趣味(捻くれてるって?余計なお世話よ!)。そのため老若男女問わず恋愛相談を受けることが多い。趣味は映画観賞で週に3本は映画を見る。
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